月 ページ37
noside
……その夜も、変わらずに白んだ月が浮かんでいた。何処か遠くから、太陽の光を受けてこの星の夜に輝くそれは、自分がここからどんなに綺麗に在るのかを、美しく見えるのかをを知らないままに輝いているのだろう。そしてそれはきっと、夜空を見上げている者が知っていればいい。
……その、眩しいくらいの輝きは、ただ一人でも知っていれば、それでいい。
……そんな儚い光の下。江戸のとある漁港に停泊している、一隻の巨大な船があった。海の音に混じって、音色がその場には響いていた。優しく、柔らかく、その音は響いていた。歌声なんてものがなくとも魅了されてしまうほどに、綺麗な旋律だった。
……その船の上。甲板に立っている一人の男から、その音は発せられていた。
……月を見上げながら、男は一旦、その音を止ませた。辺りには海の音だけが響いている。その目に光を映して、そうして、口角を小さく上げる。まるで、そこには居ない、愛しい誰かに微笑みかけるかのように。優しく、柔らかく。
「………もうすぐか」
……月を眺めながらに、そう呟いた。
…その月は、もうあと数日で満月になるであろう、少しだけ欠けた月だった。
……そして男は、一人の女の名前を呼ぶ。
……まだその女が男の隣で笑っていた時と同じ声色で。
……大切に大切に、呼んだ。
……この月を、アイツも見ているのだろうかと、男はふと思う。どうでもいいことだ。目の前に彼女が居ないのなら知る術もない。意味のない事だ。
……けれど、同じ夜の、同じ夜空の、同じ月を、アイツも見ていたのだとしたら。
……そんなことを脳裏で浮かばせて、男は低く、冷たく、笑った。
308人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
樹里(茉莉華) - マジでこれ泣けましたっ!! 沖田隊長もいいですけど、士方さんのまっすぐなものもいいですね! ピピコさんの作品はどれも大好きです!応援してます!! (2018年9月10日 16時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 天音さん» 語彙力がなくなるほどに、ですか…!嬉しいです^^私自身も楽しんで書いてます!!次の巻では大きくお話が動き出しますので、そちらでも楽しんで頂けたら幸いです!!天音さんの癒しになれますように!! (2017年9月21日 18時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - なんかもう面白すぎてなんて表現したら良いか分からなくなって来ましたwww (2017年9月21日 17時) (レス) id: c47ef2ab15 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» あの人達が出て参りましたねぇ…!!どうなることやら、フッフッフッ……。更新バリバリ頑張りますっ!! (2017年9月19日 22時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ぬおおっ! き、鬼兵隊キタ…ッ! 高杉との絡みがあることを祈りつつ更新楽しみにさせていただきます! (2017年9月19日 20時) (レス) id: d0488b3ee5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年8月25日 14時