たまたま 土方side ページ26
土方side
本当にたまたまだ。誰がなんと言おうとたまたまだ。別に、Aの様子が気になってだとか、そういうことでは断じてない。決してない。通り掛かっただけだという理由だけで、それ以上でもそれ以下でもない。
…そんなことを頭の中で繰り返しながらに俺は夜、ソイツの部屋の前の縁側、いつもの定位置に訪れていた。
…いや、本当にたまたまなのだが。
今日も今日とて月明かりに淡く照らされ、秋のかおりを含んだ夜風が優しげにその場に吹いて、満たしていた。そこには、髪を下ろして風に揺らしているAと、いつもと同じ、ヘラリとした笑顔がそこにある。今日、何かを間違えたなら、ここには居なかったかもしれない存在だった。
…元伝説の攘夷志士、紅の舞姫、赤坂A。
…そして同時に、真選組副長補佐であるソイツ。
…もし、俺があの時コイツにかけた言葉が一つでも間違っていたなら、あの場に居た隊士達の心境が、少しでも違ったものだったなら、はたまた、Aの中に存在する意思が少しでもずれていたなら、今Aはこの場でこうして縁側に腰かけてはいなかっただろう。こうして、笑顔を振り撒いてはいなかっただろう。
……紙一重だった。本当に。
…そうして、少しの距離を持って並んで腰かけている縁側にて、いつもと同じように、他愛のない話をしていた。そんな中。
土「A、」
「…ぇ、あ、はい」
…ソイツは急に黙り込み、一人何かを考えるような表情を浮かべていた。気難しそうに、何処か不安気に。
自分の足を見つめるその目は、先程の明るいものとは違い、戦いの最中の殺気にまみれたものとも違い、酷く弱々しい色をしていた。乱暴に触れたら、壊れてしまいそうな危うさを持っていた。ゆらゆらと、不安を見据えるように揺れている。
…それに何故か、またもや俺は見いってしまっていて。意識を引き戻すようにソイツの名前を呼んでいた。
土「何か考えてただろ、今」
そう、俺はAに問い掛けた。明らかに、様子がおかしかったのだ。無表情で、その目だけが何かしらの感情に揺れていて。その目に何を見ていたのか、何を思っていたのか、どうしようもなく気になってしまった。
「…そんなことないですよ……って、言ったって、貴方はきっと誤魔化されませんね」
…そう言いながら、いつものような笑みを溢すA。その面は、本当にいつも通りだった。だから俺は、いつだってコイツの考えることを見透かせない。他人の変化やら真理やらには鋭い方だと自分でも思っているのだが、やはりAのことに関しては別らしく。
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樹里(茉莉華) - マジでこれ泣けましたっ!! 沖田隊長もいいですけど、士方さんのまっすぐなものもいいですね! ピピコさんの作品はどれも大好きです!応援してます!! (2018年9月10日 16時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 天音さん» 語彙力がなくなるほどに、ですか…!嬉しいです^^私自身も楽しんで書いてます!!次の巻では大きくお話が動き出しますので、そちらでも楽しんで頂けたら幸いです!!天音さんの癒しになれますように!! (2017年9月21日 18時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - なんかもう面白すぎてなんて表現したら良いか分からなくなって来ましたwww (2017年9月21日 17時) (レス) id: c47ef2ab15 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» あの人達が出て参りましたねぇ…!!どうなることやら、フッフッフッ……。更新バリバリ頑張りますっ!! (2017年9月19日 22時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ぬおおっ! き、鬼兵隊キタ…ッ! 高杉との絡みがあることを祈りつつ更新楽しみにさせていただきます! (2017年9月19日 20時) (レス) id: d0488b3ee5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年8月25日 14時