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掴む 土方side ページ19

泣き出してしまうんじゃないかと思った。今まで泣き顔なんか見せたことのないソイツ。その目から涙が流れる場面なんざ想像も出来ねぇが、あまりにその目が、純粋で、求めていたものが漸く目の前に現れて、嬉しくて泣き出すような、小さな子供のような弱々しく、綺麗な色をするものだから。

…あまりにも綺麗で、思わず俺はそれに見惚れかけてしまう。


土「帰るぞ、A」

「ッ」


…夢から意識を現実に戻すようにして、俺はソイツにそう告げた。俺が差し出した掌を見つめて、目を丸く見開かせて、呆然としている。変わらず、泣き出しそうな表情を浮かべたままで。


だが、その目から透明な雫がこぼれ落ちることはなく、Aは口を固くキュッと引き結んで、顔をうつ向かせた。泣くのを、我慢しているかのように。そうしてAは、その口元に漸く笑みを見せた。


「…ホント、バカなんですね」


顔を上げたAは、眉を困ったように下げながら、呆れたように笑いながら、それでも何処か、重いものがその背中から剥がれ落ちたかのような、清々しい笑顔をしていた。いつもと同じ、真選組副長補佐、赤坂Aの笑顔。


……雨空から落ちる雨がやんで、曇天が快晴に変わっていくような、洗われた後の、青空のような。


…その面は、以前、月の夜に見たあの面と同じくらい、それよりも、文句のつけようもなく、綺麗に見えた。


…それに俺は、少しだけ息を呑むのと、Aが俺へと手を伸ばすのは、ほぼ同時だった。ゆっくり、ゆっくりと、恐る恐る、Aは手を伸ばす。


が、その手は、先程の乱闘の返り血がベットリとついており、赤色に染まっていた。それに気づいたのか、Aは「あ」と小さく漏らすと、その手を引っ込めようとする。


「…、」


それを止めるように、俺はその手を掴んだ。少し乱暴だったかもしれないが、その手を、掴まなければならないような気がした。今、その手に触れておかないと、いけない気がした。

驚いたように目をまた丸くさせて、やがてすぐに、ふっ、とその面は綻ぶ。嬉しそうに、目を細めて。


「…土方さん」

土「…あ?」


笑みを浮かべたその口が、俺の名前を呟いた。



「…お風呂入りたいです、ベッタベタです」

土「…あぁ、帰ったら勝手に入っとけ」


自分の居場所なんだ。好きにすればいい。雰囲気を壊されたのは、なんだか腑に落ちないが。


「よし、そうと決まれば帰りましょう!」

土「調子のいい奴だな」


…無邪気に笑ったソイツは、紅の舞姫でもなく、伝説の攘夷志士でもなく、

…ただの、一人の女の面だった。

おかしな話→←掌(てのひら) 土方side



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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 真選組   
作品ジャンル:アニメ
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樹里(茉莉華) - マジでこれ泣けましたっ!! 沖田隊長もいいですけど、士方さんのまっすぐなものもいいですね! ピピコさんの作品はどれも大好きです!応援してます!! (2018年9月10日 16時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 天音さん» 語彙力がなくなるほどに、ですか…!嬉しいです^^私自身も楽しんで書いてます!!次の巻では大きくお話が動き出しますので、そちらでも楽しんで頂けたら幸いです!!天音さんの癒しになれますように!! (2017年9月21日 18時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - なんかもう面白すぎてなんて表現したら良いか分からなくなって来ましたwww (2017年9月21日 17時) (レス) id: c47ef2ab15 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» あの人達が出て参りましたねぇ…!!どうなることやら、フッフッフッ……。更新バリバリ頑張りますっ!! (2017年9月19日 22時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ぬおおっ! き、鬼兵隊キタ…ッ! 高杉との絡みがあることを祈りつつ更新楽しみにさせていただきます! (2017年9月19日 20時) (レス) id: d0488b3ee5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2017年8月25日 14時

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