269、我慢しなくていい ページ22
もう我慢しなくていい。自分の気持ち全部吐き出してみろ。
そんなことを言われたのは初めてだった。
人のあたたかさに直に触れ、涙が溢れてきた。
貴女「……わ…私は…」
風丸「…ん？」
貴女「…そりゃ、悔しい…ですよ…」
Aの声は微かに震えていた。
貴女「…言われっぱなしって結構キツイんですね…」
一度本音を吐き出すと、次々に溜め込んできていたものが溢れ出てきた。
貴女「…悔しい…すっごく悔しい！何であんなこと言われなくちゃいけないの！？」
風丸「…うん」
貴女「ムカつく、ムカつく！いつもいつも偉そうに！！」
風丸の胸の中で涙を流しながら心の内を叫んだ。
悔しい、ムカつくと何度も声にするたび、風丸も小さく相づちをしてくれる。
…でも、ベルガモさん達の言うことは間違いではないから、今の私には言い返すことはできない。
…それに、私がすべきことは暴力でも口論でもなくてサッカーだ。私にできるのは、試合で見返すことだけ。
風丸「そうか…偉かったな。冷静に考えることができて」
風丸の抱きしめる力が少しだけ強くなり、Aの頭をポンポンと優しく叩いた。
そのおかげか次第にスッと気持ちが和らいでいく気がした。
誰にも文句を言われないような強い選手になりたいと、心に誓う余裕も出てきた。
貴女「…ありがとうございます。本音ぶちまけて、楽になった気がします」
少し気持ちが落ち着くと、手で涙をぬぐい風丸から離れた。
風丸「辛い時は辛いって正直に言え。その時は先輩に甘えればいい」
貴女「…何か申し訳ないですね」
風丸「俺が良いって言っているんだから良いんだよ。特別だからな」
特別、という言葉を口にして、風丸ははっとした。
風丸「…こんなことまでしてくれる先輩他にいないぞ。感謝しろよ」
そんなことを言いつつ、照れ隠しをしているようにしか見えなかった。
風丸さんは、私を元気づけようとしてくれたんだ。
感謝してますよ。いつも。感謝してもし切れないくらいです…。
それからもAは、風丸の厚意を無駄にしないように、練習に明け暮れた。
そんなAの練習風景を、離れたところからじっと見ていた人物がいた。
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作者名：紅葉 | 作成日時：2019年8月23日 13時
