523、成長の糧 ページ29
ベルナルドはAの言葉に黙って耳を傾けていた。
それが何だか妙に照れくさくなってきた。
「…なんて偉そうなこと言って、私にも失敗なんて数え切れないほどあるんですけどね」
その度に、自分を嫌いになりそうになったなあ。と、Aは苦笑いをした。
「でも何度失敗しても、何度もやり直せばいいと思います」
とにかく前を向くしかない。
今までの出来事全てが、これからの成長の糧になると信じて。
その時。
「…ふ」
くぐもった笑いと共に、背中が揺れた。
「わ、私おかしなこと言っちゃいました？」
「いや、「失敗しても、やり直せばいい」…か。実にAらしいが、その通りだな。本当にお前には、教えられてばかりだ」
教えられてばかり？私に？
いやいやいや。それはこちらの台詞なのに。
「…不思議だな。お前といると、安心する」
顔は見えないのに、笑顔でいてくれてることが分かる。
たったそれだけのことなのに、とても嬉しく思うよ。
あ、そろそろ行かないと。
「最後まで全力で戦って来ます。見守っていてください、私たちの戦いを」
背中から離れ、ベルナルドの横を通り過ぎようとしたところで、足を止めた。
「あ…。前に、できることはないかって聞いてくれましたよね」
背を向けたまま、お願いした。「背中、押してもらえますか？」と。
え、と、後ろから困惑の混じった声が聞こえた。
「やっぱどうしても緊張して…だから背中押してもらえたら、少しでもほぐれる気がして」
「構わないが…私でいいのか？」
「はい！お願いします」
だが、いくら待っても背中に感触がない。
不思議に思い振り向こうとした時。
「…奇跡の天使…か。良い響きだ」
「えっ…何ですか急に」
「お前ほど、その名に相応しい者はいないよ」
「！？」
予想外の反応に、Aも固まった。
まさか、そんなことを言ってもらえる日が来るとは。お世辞かもしれないけれど。
少しは私も役に立てたってことかな。だとしたら、すっごく嬉しい。
「いつも、ありがとう」
「えっ…？」
不意にお礼を言われ、咄嗟に後ろを振り向こうとした時、トンと優しく背中を押された。
「行って来い。頑張れ、A」
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作者名：紅葉 | 作成日時：2020年4月6日 19時
