視線の先のその先へ - Side F

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良いのか悪いのか、今日は北山との撮影だった。

いつも通り背中合わせの写真を撮っていると北山の体がぐらりと傾ぎ、慌てて支える。触れたのは一瞬だったが、熱を持っている気がした。


「悪い」


掠れた声。
気にするなと伝わるように小さく頷いた。

カメラマンの指示で北山が体を寄せた時、あまりの熱さに一瞬動きを止めてしまった。
よくこんな状態で撮影していたなと驚いたが、俺が北山でも同じことをしていただろう。だからこそ最後までしっかり仕事をさせてやりたいと思った。

ソファに移動すると北山は俺の膝に頭の乗せ、ぐったりとしていた。呼吸も荒く、髪から覗く耳が熱で赤くなっている。

少しでも楽になって欲しくて、無意識に髪を撫でていた。


「大丈夫だから」


驚いて振り返ろうとする頭を軽く押し言うと、大人しく膝に頭を乗せ直した。

俺がなんとかするという意思を込めた「大丈夫」が、伝わったんだと思った。

北山とは、仕事であれば誰よりも意志疎通が出来る。


体勢を変えるよう指示があった時、北山は起き上れない様子だった。

辛そうに眉間に皺を寄せ必死に起き上ろうとする姿に、カメラマンにこのままの体勢でいいんじゃないかと提案する。俺がこんな提案をすることは珍しいから、テンションの上がったカメラマンがこのままでいこうと言うのに心の中で安堵した。

撮影が終わっても立ち上がれそうにない北山を、自分が立ち上るのと同時に脇に腕を差し込んで起き上らせた。

驚いたように目を丸くしたまま俺をじっと見つめたあと、北山は「ありがとう」と言った。


いつものように素っ気ない返事をしてしまったが、本当は嬉しかった。すごく嬉しかった。

北山が俺を頼ってくれたこと。
北山の為に動けたこと。
俺のしたことで北山が喜んでくれたこと。
全部が堪らなく嬉しかった。

北山の歩く速度に合わせゆっくりと控室まで戻りながら、口元が緩みそうになるのを必死で堪えた。


控室に戻ると、二階堂と千賀がテンション高く話しかけてきた。
北山は撮影のことを話したくないだろうから、俺が率先して話す。


ほっとしたような顔で帰りの準備を始める姿を目の端に入れながら、心の中が満たされていくのを感じた。

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