君以外もう知らなくていい 4

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平日の昼下がり、ウッドデッキテラスでクロワッサンサンドを頬張りながら道行く人を眺めていた。


「家の家具を新しくしようと思ってるんだけど、ひろくんにお願い出来ないかしら」


聞こえた声に目の前の人を見詰め、それからゆっくりカフェオレで流し込む。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、うちの家具はよーこさん家には合わないんじゃないかな」
「別にひろくんの会社じゃなくてもいいのよ？」
「うーん、高級家具は勉強不足なんだ……ごめん」


あれ以来、裕太の母親から頻繁に連絡が入るようになり食事に買い物に付き合っているうちに随分と仲良くなり、今じゃ「ひろくん」「よーこさん」と呼び合っている。

あまり仲良くしない方がいいのも分かっているが、突っぱねる理由もなく今日もブランチに付き合っていた。


「もしひろくんが勉強したいんだったら、コーディネーターの友人を紹介するわよ」
「え？」
「そういうの勉強したいんじゃない？」


自分の会社の家具のことは分かるが、高級家具となるとなかなか触れる機会がない。しかもプロに教えてもらえる機会なんて今後ないかもしれなくて、是非ともお願いしたいのが本心だ。

だが息子の恋人に親切にしてくれているのであって、俺に親切にしてくれているのではない。


騙しているみたいで素直に頷けなかった。



気が向いたら連絡してと言ってくれた陽子さんの気遣いに益々申し訳ない気がして、もやもやしながら次の日の仕事を終えると会社の外に裕太がいた。


「あれ、来るって言ってた？」


約束を忘れていたかと慌てて携帯電話を出そうとすると、頭を横に振る。


「母さんから会ったって聞いて、ずるいなと思って来た」
「んはっ、なんだよそれ」


最初に呼び出された理由は言ってないが、会っていることは伝えていた。


裕太は忙しそうで、こうやって会うのは藤ヶ谷が部屋に来てから二回目。


「それより仕事はよかったの？ 忙しいんだろ？」


提案したデザインが採用されたらしく、藤ヶ谷は嬉しそうだった。

変わらずメッセージは届いているが今は短文で一、二回往復すると終わってしまう。勝手な話寂しい気もするが、頑張っているんだと思うと嬉しかった。


裕太の恋人役を引き受けて良かったのか悪かったのか分からないが、藤ヶ谷の仕事のことは本当に良かったと思っている。

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