君以外もう知らなくていい 2

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そのタイミングで運ばれてくる小菓子にさすがとしか言いようがなく、思わずスタッフに頭を下げる。

美しく涼しげなガラスの皿に、見ているだけで楽しい色とりどりの焼き菓子が並ぶ。


思わず感嘆の声を上げると、隣から楽し気な笑い声が聞こえた。


「見た目だけじゃなくて味も美味しいんだよ。甘い物とか普段あんまり自分で買うことないんだけど、ここのはおススメ」
「お土産に買えたりすんの？」
「クッキーは売ってるから、気に入ったら買っていけば？」


確かにまずは味見だなとクッキーを口に入れると、ほろほろと崩れる。


「んまっ」


こんなに美味しいクッキーを食べたことがないというくらいの美味しさに、また声が漏れてしまった。

慌てて口を押えるが時すでに遅し、視線が集まっているのが分かる。

笑顔で俺を見ると裕太が手を挙げスタッフに何かを頼むと、すぐに薄いパンフレットのようなものを持ってきた。


「テーブルで頼むと、帰る時に用意しといてもらえるから」
「ありがとう」
「どういたしまして」


気は遣えるが、こういう気の遣い方をするのはなんだか意外だと思いながらパンフレットを眺める。
可愛い缶に色とりどりのクッキーが詰まっていて、藤ヶ谷が好きそうだ。

少し悩んでから大きい缶をひとつ、小さい缶をふたつお願いした。


そのあと父親とは会話はなかったが母親とは少し話をし、またねと別れた。



「あー疲れたー」


庶民からしたら目が飛び出すような支払額に、それくらいするだろうと思っていたが実際目の当たりにすると慄いてしまう。

せめてお土産のクッキー代くらいはと言ったが、お礼と思ってくれたらいいよと返された。
それなりの値段だったがいいのだろうかと思いながら、お礼を言う。


「この後ちょっといい？」
「ん？」
「商品開発の話ちょっと考えてることがあって、宏光の意見は聞きたいんだよね」


正直今すぐ帰って寝たいと思ったが、一か月で商品開発案を出さなければならないとなると時間がない。


「俺ん家だったらすぐだし、部屋着も貸してあげるし」


どうしようと思っていると少し焦ったように言ってきた。

スーツを早く脱ぎたい気持ちがあったから、着替えられるならいいかと頷く。


ちょっと強引なくらいだったのに眉を下げた顔が大型犬のようで、自分より上にある頭を撫でてやった。

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