君以外もう知らなくていい 2

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目が覚めると北山はもう起きていた。


「おはよう」


北山の手元を見ると、具沢山の味噌汁が鍋いっぱい入っている。


「はよ。冷蔵庫にあるものぶち込んだけどよかった？」


俺の家に泊まった時は、簡単なご飯を作ってくれる時が多い。


「うん、大丈夫」


駄目だとしてももう遅いが、入っていた具材も前に北山が来た時の残りだから問題ない。


「じゃあ、ご飯あっためて」


言われた通り冷凍ご飯をレンジにかけ、顔を洗いに洗面所に行く。

鏡に映った顔が緩んでいて、パンパンと両手で叩いて気合を入れた。


「今日は味噌汁だけ。肉も入れたからボリュームはあると思うけど」


汁椀に入れられた、本当に冷蔵庫に入っていたものを全部入れたような味噌汁。それでも味噌のいい香りが食欲をそそる。


「美味しそう」
「だろ？ みそ汁とカレーは何入れても美味くなんの」


んふふ、と笑う北山。


こんな生活が続けばいいのにと思ってしまう。


「昨日は寝ちゃってて悪い。ちょっと飲み過ぎたみたいでさ」
「ほんとだよ。ベッドの真ん中で寝てるし大変だったんだから」


ローテーブルを置いた味噌汁とご飯を前に二人で手を合わせる。


「あれ？ 藤ヶ谷の寝るとこ、あけといたつもりだったんだけど」
「そんなの北山に出来るわけないでしょ」
「確かに」


そう言ってまた特徴的な笑い声をあげる。


「これ食べたら帰るわ」


ちょっと具が多すぎる味噌汁を食べながら他愛のない話をしていると、北山は言った。


「なんか用事あるの？」
「んー？ 引っ越しの準備全然してないからさぁ」


北山から明日引っ越しだと聞いていた。
一人暮らしをしてたわけじゃないから荷物は多くはないだろうが、それでもそれなりに時間がかかる。


急に現実が目の前に現れて、幸せな時間が終わりを告げてしまった。


「……そっか」
「お前全然料理やんねーし、忙しくてもたまにはしろよ？」


北山は変わらない口調で母親みたいなことを言う。

いつも落ち込んでいる時は気付いてくれるのに、今日は気付いてくれない。


なんでなんて勝手に憤っている間に北山は食事を終え、ごちそうさまと席を立ってしまった。

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