君以外もう知らなくていい 1

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「なんかあったわけじゃないんだけど、出来たら来月あたりに両親に会ってもらいたいなって」


本当のことは言えないから、考えていたスケジュールを話すと大きな声がした。


「そんなに驚く？」
「いや、まあ、言われたらそうだよな。ちょっと心の準備が出来てなかったから」


緊張気味に胸を押さえる様子に、そうだよなと思う。


「基本は俺が答えるけど、聞かれそうなことを書き出して対策を練っとこう。そうすれば大分マシなはず」
「あ、うん」
「じゃあ、この前話した出会いから固めていこう。えーと、紙とペンは……」


立ち上がると下からの視線を感じ、頭を下げる。


「どうかした？」
「いや、なんかやる気だなって」
「ん？」
「冗談でこんなこと言われてるなんて思ってないけど、なんていうか必死さみたいなのはあんまり感じてなかったから」


宏光が言おうとしてることが分かって、隣に座り直す。


「うん、多分必死になり切れてなかったと思う。でもいい加減まずいかなって」
「なんかきっかけでもあった？」
「そういうわけじゃないけど、時期的にもそろそろ意思表示しないと」


結婚の予定は来年の春。そろそろ具体的な話があるかもしれない。


「確かに相手のことを考えても、早くしないといけないね」
「えー、相手より俺の心配してよ」
「もちろん心配してるけど、相手の子って専業主婦になる予定なんでしょ？ もし寿退社しますって言ってたら、居づらくなるんじゃないかと思って」


ハッとした。

確かにそうだ。いくら気に入らないといっても、相手にもこれからの生活がある。


「だから出来るだけ早くした方がお互いの為でしょ。……緊張するけど」


慰めるみたいに軽く笑ったあと、少し照れくさそうに自分の胸に手を当てた。


宏光は、しっかりしているようで隙がある。

このまま一緒にいたら、後戻り出来なくなってしまう気がした。


「よし、しっかり準備して戦いに挑もう！ おー！」
「んははっ、じゃあ頑張りますか」


だからなるべく早く離れなければいけないと思う。



例えこの笑顔を、もっと見たいと思ったとしても。
　

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