星月夜 3

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またコンサートが始まった。

今回は三日で五公演、しかも過ぎたとはいえ満月が近い。
薬は最終日に使うと決めていたから、その前の二日は自力で頑張らなければならない。


今回はソロもないから、コンサート中に隠れて血を飲む時間はない。

始まる前に出来るだけ飲んで、乗り切るしかない。


月を跨ぐごとに症状が酷くなっているから、この前のコンサートで大丈夫でも今回も大丈夫かなんて分からない。

絶対に失敗出来ないからこそ、緊張感とプレッシャーが重くのしかかる。



曲の合間に袖に捌けて息を整えようとするが、息が上手く吸えない。


崩れそうになる体を壁に手を付いて何とか支えるが、眩暈が止まらなくてしゃがみ込みそうになる。


「ミツ」


呼ばれて、腕を引かれる。


どこから来たのとか、立ち位置はとか色々聞きたいことあったが何一つ言葉にならず、玉森について幕の裏にいく。


「すぐ飲んで」


焦ったように出される指に一瞬躊躇ったが、周りの気配にすぐに噛み付いた。

いつもより大きく裂いてしまった皮膚に玉森は小さく声を出したが、唇を離そうとするといいからと言われそのまま強く吸った。

時間にして数十秒だと思うが、すぐに離し懸命に指を舐めた。
その間、玉森は何も言わなかったが終わると立ち位置に戻っていった。


他のメンバーやスタッフも何事かと思っているだろうが、考える間もなくステージに飛び出した。



何とかコンサートを終えステージを降りたが、時は脚がガクガク震え上手く歩けない。


千賀が異変に気付いて大丈夫？ と声を掛けてきたが、答える前に横から玉森が大丈夫だからと俺の体を支えた。

俺も千賀も驚いて何も言えないうちに、支えられたまま楽屋に運ばれる。


「シャワー浴びる？ このまま帰ってもいいけど」
「……衣装あるし、浴びたい」


このまま倒れてしまいそうなくらいだったが玉森の車で帰ることもあり、汗がついたままでは無理だとそう言った。


「わかった。じゃ、行くよ」


勝手に俺の鞄から着替えを出し、抱えるようにしてシャワールームに押し込まれる。


立っているのもやっとだったが玉森は座ってていいよと言い、不思議に思って見上げたら「俺が洗ってあげる」と笑った。


「え、いいって」
「倒れられた方が面倒だから」
「そりゃそうだろうけど」


そう言われたらそうなんだろうが体を洗ってもらうなんて子供の頃、母親にしてもらって以来だから恥ずかしくて仕方がない。

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