星月夜 3

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珍しく全員が残っていて、俺が入るとほっとしたような表情を浮かべたから、撮影前の騒動が耳に入っているんだと分かった。


「帰ってくるの遅かったね」
「おう、ちょっとカメラマンさんと話してて」


腫れものに触るような空気に、宮田が笑顔で話しかけてくる。
いつも空気を読んでくれる宮田だから、きっと玉森の変化を強く感じているだろう。

近いうちに宮田に話を聞かなければと思っていると、玉森に呼ばれた。


「ミツ、早くしてー」


さっきまでの強固な姿勢ではなく、いつもの玉森らしい面倒くさそうな口調にほっとする。


「すぐ着替える」


メンバーが帰る中、心配そうな視線を感じながら藤ヶ谷もお疲れと楽屋を出て行った。

宮田がいつものように玉森に付き合ってくれたおかげで、落ち着いて着替えられる。


「お待たせ」
「遅いんですけどー。待たされたから今日はミツのおごりね」
「宮田と話してたじゃん。それにいつも奢ってんだろ」
「あはっ、そう言えばー」


そうやって子供みたいに笑う姿はいつもの玉森で、さっきとはまるで別人のようだ。



タクシーで帰るという宮田と別れ、助手席で流れる明かりを見つめていると玉森が口を開いた。


「今日はごめん」


見ると前を向きながら、眉間をきゅっと寄せている。

その姿が怒られる前の子供みたいで、緊張していた心が少し解けた。


「たまが大きい声あげてるの初めて聞いたかも」


普段と変わらないトーンを意識して声に出すと、玉森がチラリと視線を向ける。


「藤ヶ谷とケンカでもしたか？」


出来るだけ軽く聞くと、してないと子供みたいな口調で返してくる。


「あ、そうなの？」
「ケンカじゃないし、ガヤが悪いとかでもない……たぶん」
「多分なのかよ」


言い回しが面白くて笑うと玉森は一瞬ほっとした顔をしたあと、うーんと唸った。


「悪くないんだろうけど、ミツが危険な目にあうんじゃないかって思っちゃうんだよね」
「危険な目なんてあってねーよ？」


俺が言うことなんて分かってたみたいに、うんと頷く。

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