星月夜 3

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「さ、そろそろ寝ようぜ。明日も早いだろ？」


あんまり込み入った話はされたくないのと、このままの雰囲気で終わらせたいので立ち上がる。


「さっきも言ったけど、藤ヶ谷はベッド使って。俺はソファで寝るから」
「いや、俺がソファで寝るよ」
「お前、ソファなんかじゃ寝れないだろ？ 俺はどこでも寝られるからさ」
「でも」
「遠慮すんなって。藤ヶ谷が寝れない方が困るしさ」
「……そう言うなら」


申し訳なさそうな藤ヶ谷が可愛くて、まだこんな顔するんだなって懐かしい気持ちになる。



藤ヶ谷を寝室に追いやってから、脱衣所で静かにドライヤーをあてる。


「……確かに痩せたな」


Tシャツの襟ぐりから、鎖骨がくっきりと浮かび上がっているのが鏡に映る。

頬の肉も削ぎ落ち、まるで20代前半の頃のようだ。


リビングに戻ろうとした足を、寝室に進める。


「藤ヶ谷？」


ドアをノックしたが返答がなく、そっと開けてみる。

灯りの付いてない部屋に寝たかなと思いながらベッドに近づくと、静かな寝息が聞こえた。


スタンガンを持った男に遭遇したり慣れない俺の家に来たり、きっと緊張していたのだろう。

寝つきがよくない藤ヶ谷が眠れたことにほっとしつつ、疲れさせたことを申し訳なく思う。


ベッドの傍らにしゃがみ、恐る恐る藤ヶ谷の手に触れる。

起きないか心配だったがぴくりとも動かないから、その手を自分の頬にあてた。


「……あったかい」


藤ヶ谷の温もり、匂い、全てが苦しいくらい懐かしい。


優しくされると嬉しい。嬉しいから苦しい。


だが殺されるかもしれないという恐怖の中、藤ヶ谷がいてくれることがどれだけ安堵をもたらしてくれたか。


心のままに藤ヶ谷の優しさを受け入れられたら、どれだけ幸せだろう。

そんなこと出来ないのに、突っぱねることも出来ない自分の弱さが嫌になる。


「……藤ヶ谷……」


名前を呼ぶとまた涙が溢れて、慌てて手を離した。


手の甲で涙を拭い、ゆっくり立ち上がる。


「…………おやすみ」


寝ていると分かっていても、本当に言いたい言葉は口に出せない。もう二度と口にしてはいけない。



朝までゆっくり眠れることを願って、静かにドアを閉めた。

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