星月夜 2

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さっきまで本気で怒っていたのに、何の話をしていたのか分からなくなるような緩い会話。


「はいはい、もったいないからさっさと飲んで」


納得いかないまま指を口に咥えると、甘さがじゅわっと広がる。



(…………美味い)



玉森の血はいつだって美味いが、昨日飲んでないからか今日は一段と美味く感じた。


どんどん人から離れていくように感じる。

このまま症状が酷くなって、戻らないような気さえしてくる。


日々変化していく症状に、心も体もついていかない。


「どうしたの？ まだ、お腹いっぱいじゃないでしょ？」
「あ、うん、もうちょっと」


腹が空いてるのも匂いで分かってしまうし、この匂いのせいで純血に気付かれてしまうかもしれない。


人として生活するには生きづら過ぎる体だ。



(まあ、人じゃないもんな)



そもそもこの体はもう人ではない。人として生きるのに適していなくて当たり前だ。


中には吸血鬼の能力を活かし、生活する人もいると聞く。

容姿に恵まれるので芸能界に多いと言われているが、飛鳥居さん以外にその存在を知っている者はいない。

もしそれが本当だとしたら、どんな仕事も怖くなる。

例え知り合いだったとしても、俺が混血だと分かったら危害を加えてくるかもしれない。


そう誰をも疑ってかからなければならない。


考えただけで気が滅入る。


「……ごちそうさまでした」


いつもより少し長く吸ってから傷を綺麗にして離すと、玉森が心配そうに首を傾げる。


「やっぱり元気ないね」


どういう顔をしていいのか分からなくて、曖昧に笑ってみせた。


「歳かなー？ なかなか体力が回復しないわ」
「俺の血吸ってんだから、元気になってもらわないと困るんですけど」


玉森は俺をじっと見つめてから、そう言っておでこを指で弾いた。


「痛っ」
「ほらさっさと寝るよー」


弾かれたところを手で押さえたが、玉森は無視して布団に潜りこんでいく。


「え、なんでデコピンされたの？」


返信どころか顔を向けられることもなく、仕方なく俺も布団に入る。


「おやすみ」


掛けられた声に、やっぱり玉森の優しさを失うのは怖いなと思いながらおやすみと目を閉じた。

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