星月夜 2

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玉森の頭に手を当てると、すごい勢いで手首を掴まれる。


「ミツ、やめて！」
「離せっ」
「俺が悪かったから。もう二度とガヤを疑ったりしないから……っ」


こんな必死な玉森は見たことがないというくらいの勢いに、掴まれた手首が痛い。


「……あっ、ごめん」


痛みに顔を歪ませたのに気付いたのか、玉森が手首を離す。

掴まれた場所が赤くなっていた。


「なんでそこまで？ 俺が吸血鬼だって記憶がなくなっても、たまが困ることないだろ？」
「困るよ」
「は？」


困ることがないどころか生活も縛られないし、玉森にとって良いことしかない。それなのに玉森は、困ると言った。


「今更ミツのこと放っておけなんて、そっちの方が困るから」
「罪悪感なんて持つ必要ねーよ？ 恨んだりしないし」
「罪悪感がまったくないかって言われたらわかんないけど、ミツが一人で苦しむとか無理」
「でも忘れたら、そんなことも考えなくてよくなるじゃん」
「忘れたとしても、絶対ミツの様子がおかしいって気付くと思う。その時に俺あれこれ聞くよ？ そっちの方が面倒じゃない？」
「はあ？」


めちゃくちゃな理由に思わず情けない声を上げる。

消した記憶が多ければ多いほど現実との擦り合わせが難しくなり、思い出せないことがストレスになって相手を敬遠するようになる。


母は知っていて父の記憶を消した。

「離婚した理由は、性格の不一致ってことで納得するんじゃない？」と笑っていたが、その奥にどれだけの悲しみを抱えていただろう。

今の俺はその悲しみの深さが分かる。


だからこそバケモノである自分を肯定してはいけない。

どれだけ深い悲しみに襲われたとしても、それだけのことを俺はしたんだ。


「確かに面倒なことも多いよ。でも俺は、記憶を消したくない」


自分が玉森の立場だったらと考えて、忘れてくれと言われてはいそうですかとならないのは分かる。

だがここまで必死になるだろうか。


「なんで？ お前、面倒くさがりじゃん。まあここまで付き合わせたのは俺だけどさ」


これがメンバーの為とか仕事の為とか言われるならまだ分かるが、記憶を消したくないという言い方にかなり違和感があった。


俺の知ってる玉森は、俺に対してこんなことは言わない。

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