星月夜 1

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「はぁ……っ、は……」


シーツを握り吐き気に耐えていると、病室のドアが開く。


「ミツ！」


玉森が勢いよく入って来た。


「……た……ま……」
「早く飲んでっ」


俺が体調悪そうなのを、血が足りないからだと思ったのだろう。


マネージャーがいないと分かると、すぐに指を出してきた。


「大丈夫だから」
「早く！」


俺の声を遮るような声にそれ以上言えなくなり、差し出された指に歯を立てた。


舌に乗る甘さを美味しいと感じる。


さっきまで空腹を感じていなかったのに、飲むともっと欲しくなる。

欲しくなるということは空いていたのだろうか。



自分のことなのによく分からない。



一瞬でも記憶がない不安を、俺はきっと今まで沢山の人に味わわせてきたのだろう。


「もう大丈夫？」
「……おう、ありがとう」


いつものように傷を舐めていると、真剣な声が聞こえた。


「襲われたって聞いた時、心臓止まるかと思った」
「心配かけて悪い」
「ミツのせいじゃない」
「……俺のせいだよ」
「……ミツ」
「…………俺のせいだ」


誰が何と言ってくれても俺のせいだ。それは間違いようのない事実。


忘れてはいけない、自分が「バケモノ」だという事を。


「家に帰ろう？」


玉森が心配そうに、でも優しい笑顔で言う。


俺が吸血鬼だと言っても、血を貰う関係になっても玉森は変わらなかった。

むしろ前よりもずっと近くにいてくれる。


玉森以上に優しい奴なんていないんじゃないかと本気で思う。



しばらくは安静にしてくださいと言われ、いくつかの薬と湿布を貰った。


「とりあえず明日は休みにしましたので、また夕方連絡します」
「……すみません」
「いえ、それが俺の仕事ですから。玉森さん、よろしくお願いします」
「ほいほーい」


今日は俺が看病すると言った玉森に、マネージャーはいたく感動しながら玉森の家まで送ってくれた。



明後日からツアーの4か所目が始まる。


満月の明日、仕事が休みになったことは俺としては有り難かったが、メンバーに迷惑を掛けたことは本当に申し訳なく思う。

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