星月夜 1

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「き、北山くんが誘ったんだよ？」
「北山が……？」
「いい匂いさせてさ。だから俺……」
「だったらなんで北山、泣いてんだよ！ ふざけんじゃねーぞ！！」


男の言葉に北山の涙を思い出し、また怒りが爆発した。
胸ぐらを掴むと、後ろからマネージャーが羽交い締めしてくる。


「藤ヶ谷さん、やめてください！」
「離せ……！」
「怪我でもさせたら大変です！」
「北山があんな目に合わされて、黙ってろって言うのかよっ！」
「手を出せば藤ヶ谷さんも訴えられる立場になります！ 北山さんはそんなの望んでません！」


マネージャーの言葉にハッとする。


北山は誰よりもグループのことを考えている。

俺がこんなところで手を挙げれば、自分のせいだと責めてしまうだろう。


ぐっと奥歯を噛みしめ、手を離した。


「…………二度と北山の前に現れるな」


男が顔を引き攣らせた。

俺はどんな顔をしていたのだろう。


「あとはこちらで対処しますので」


俺が落ち着いたのが分かったのかマネージャーは体を離し、他のスタッフと一緒に男を連れていく。



「触るな！」


倒れたままの北山を別のスタッフが運ぼうとするのが見え、思わず叫んだ。


驚いているスタッフにすみませんと謝ったが、どうしても他の奴に触らせるのは怖かった。


「俺が連れて行くので、救護室の場所だけ教えてもらっていいですか？」


抱き上げた北山は思っていたよりずっと軽かった。

最近、痩せたとは思っていたがこんなに細くなっていたなんて。



(もしかして病気とか？)



自分も舞台やドラマの仕事が入るとぐんと痩せてしまうが、あまりに急激過ぎる。
まるでジュニアの頃のような細さだ。



最近、玉森がずっと北山の傍にいる。

何事かと思っていたが、北山が何かしらの病に侵されているとしたら納得が出来る。


だがもしそうだとしたら、何故玉森だけが知っているのか。

知らせるとしたらまずは自分なんじゃないかと考え、俺になんて言うわけないと思い直した。


北山にずっと冷たい態度をとっている俺になんて、相談するはずがない。

それに昔ならまだしも、今は玉森がグループのセンターだ。

玉森はああ見えて男らしいし、きっと北山を助けてくれるだろう。



そう自分を納得させようとするのに、胸のもやもやが治まらない。



理由が分からないそれに余計に苛々する。

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