Cascade 5

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「まだのぼせてるん？」


ぼうっとしていたようで大倉が声を掛けてきた。


「ううん、大丈夫」


首を横に振り、プルタブを開ける。
喉を通る苦さが、いつもより強く感じた。


大倉は持っていた缶ビールをテーブルに置き、俺の隣に座った。


「飲まねーの？」
「飲むけど、酔っぱらって言うのは嫌やから」


意味がわからなくて首を傾げると、大倉は困ったように眉を下げた。


「もう何回も言うてるけど、お前が好きや。絶対に幸せにするから、俺と付き合って欲しい」


改めて言われた言葉。

それはきっと返事が欲しいということなのだろう。

それはそうだと思う。
大倉に二度目の告白をされてから二ヶ月経っている。


「宏光がまだ好きだった人のこと忘れられてないのも分かってるけど、それごと愛させて欲しい」


すぐに答えが出せなくて口を閉ざしていると、聞こえた大倉の言葉。


俺だったらそんな風に言えるだろうか。

藤ヶ谷に忘れられない人がいて、それを分かっていながら付き合う。

それはとても苦しいことに思えた。


しかしその苦しみを押してまで付き合いたいという気持ちが、どれ程のものかを思うと胸が詰まる。

同じ想いを抱いているからこそ、大倉の気持ちが痛いほどわかる。


想いを叶えさせてやりたいと思う。

大切な人に幸せになって欲しい。

もしその過程で自分も幸せになれるなら、それに越したことはないのではないだろうか。


何度も考えたことだったが、最終的にいつもここに辿り着く。


そうすれば大倉も俺も藤ヶ谷も、みんなが幸せになれる。


「……わかった」
「え？」
「忠くんが本当にそれでいいなら……いいよ」
「ほんまに……？」
「正直、まだ忠くんのこと恋愛対象として好きにはなれてない。でもいつか好きになれるんじゃないかって思ってる。だから、もし本当にそんなんでもよかったら……」
「ええよ、それでええ」


大倉が食い気味に答えた。見るとその目が赤く潤んでいる。


「……ありがとう」
「……うん」


その顔を見た時、これで良かったんだと思った。

きっと大倉となら幸せになれる。


「宏光が俺のこと好きになってくれたらって言うたけど、今キスしてもええ……？」


男の色気漂う視線で俺を射抜くの姿にドキッとした。


こんな大倉は見たことがない。


「…………いいよ」


初めて見る姿に緊張しながら答えると、俺はそっと瞼を閉じた。

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