Cascade 4

176 ページ26

　
　
　
「そしたら俺んちでええ？ 飯は作ったるし」
「誕生日なのに自分で飯作んの？」
「宏光が作ってくれんの？」
「なんでだよ」


せっかくの誕生日なんだから、もっといいレストランで祝ってもらえばいいのにと思う。

大倉だったら他に祝ってくれる奴はいるだろうし、わざわざ自分の誕生日に自分で料理を作らなくてもいいのではないだろうか。


少し前に予定を聞かれ仕事が入っていたので他の日だったらと言ったが、どうしても当日がいいと駄々を捏ねられた。

仕方なく遅くなってもいいならと了承したがそこまで拘る意味がよく分からず、すっきりしない気分でつくねを口に入れた。


「……なんで焼き鳥なのにそんな頬が膨れるんやろ」
「ん？」


もぐもぐと口を動かしていると、ぼそりと呟くように聞こえた。


「いっつもほっぺたがぱんぱんでハムスターみたいやん」
「今更？ なんかこうなっちまうもん、しょうがねーじゃん」
「可愛いな」
「……へ？」
「可愛いやん、宏光のそれ」


二度目の告白をされて以来、大倉は「可愛い」とか「好き」とか恥ずかしげもなく言ってくるようになった。

それ以外の会話はいつも通りなのに、急に言ってくるからいつも戸惑う。


「……可愛いって、もう30過ぎてるから」
「それこそしゃーないやろ、そういう顔なんやから」


母親にそっくりだと言われるし、男顔か女顔かと言われたら女顔だとは思うが、この歳であれば可愛いよりカッコいいと言われたい。

ぱんぱんだと言われた頬を両手で触ると、大倉が難しい顔をした。


「……それ他の人の前でもしてるん？」
「ん？」
「ほっぺた触んの」
「え？」


意味が分からなくてそのままの体制で顔を伺うと、はぁと重いため息が聞こえた。


「そういうのあざといから止めや。みっともないで」
「みっともないって、大倉がぱんぱんだって言うからそうなのかなって触っただけじゃん」
「ほっぺた両手で触る30代とかおるか？ おらんやろ？ 自分がされてみぃ、こいつあざといなって思うで」


強い口調で言われ、なんでそんなこと言われないといけないんだっていう怒りと急激な態度の変化に対する戸惑いで無言になってしまう。

177→←175 K

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す