Cascade 4

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「もしかしてまだ役が抜けきってないとか？」
「いや、さすがにそれはない。ツアーも始まってるし」
「……だよな。飯は食えてんの？」
「んー、沢山は食べられないけどまあ倒れない程度にはって感じかな。でも最近、なに食べても美味しくなくて」
「そうなの？ どっか体が悪いんじゃないのか？」


北山が俺のことを本気で心配してくれている。

少し前まではそれが擽ったくも当たり前だったのに、今は泣きそうなくらい嬉しい。


「別に病気とかそういうんじゃないと思う。ただ前は美味しいと思ってたものを食べても、なんかぼそぼそするって言うか口に余るって言うか」


そう言うと北山はしばらく難しい顔をした後、意を決したように顔を上げた。


「だったら美味いも」
「お待たせしました！」


北山の言葉を遮る声に振り向くと、さっきのメイクさんが花柄のワンピースを着て立っていた。


「予約の時間になっちゃうから早く行かないとですね」
「すみません、ちょっと待っててもらっていいですか」


苛々して舌打ちしそうになるのをぐっと堪え、馴れ馴れしく腕を取ってきた手を外そうとすると北山が口を開いた。


「お、良かったじゃん。いっぱい美味いもん食って来いよー」


そう人好きのする笑顔で言うとメイクさんに会釈をし、そのまま楽屋の中に入って行った。


「ここで準備終わるの待ってますね」
「石田さんは？」
「打ち合わせが長引いているみたいで、少し遅れるみたいです」
「……すみませんが、前でタクシー掴まえてもらってていいですか？」
「あ、そうですね！ 気が利かなくてすみません」


わざとではないのかもしれないが、手を口に当て目を大きく見開いた様子がどうしてもわざとらしく映る。


さっき北山は何と言おうとしていたのだろう。


食事に誘ってくれようとした？ それともおススメの店を教えてくれようとした？


なんでもいいからもっと北山と話したかった。もっと二人でいたかった。


なんで食事に行くなんて言ってしまったんだろう。そうじゃなければ、北山と過ごせたかもしれないのに。

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