Cascade 4

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「藤ヶ谷？」


そんなことを考えていたらまた話を聞いていなかったようで、北山の訝しそうな声がする。


「あ、悪い」
「どうした？ 体調悪い？」


顔を覗き込んでくる北山。
大きな目が俺を見つめてくる。


でも前とは違う。



心配そうに向けられる瞳。


そこに俺のことを好きだと伝える色はない。

メンバー全員に向けられるものと同じ、皆と一緒の。


「ううん、大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」
「あんま無理すんなよ？」


そう言って俺の肩をぽんと叩いた。


その言葉に落胆した自分に気付く。

寝不足だって言えばまた寝かしつけに来てくれるかもなんて、なんでそんなこと考えたんだろう。


「……うん、そうだな」
「今日はやめとくか？ 次のリハまでに合わせられたらいいし」
「いや、大丈夫」


仕事中もある意味、今まで通りの北山だった。
必要なことだけを話す、だからといって別に仲が悪いということもない二人。


「じゃあ、それで言ってくるわ」


話しが終わるとすぐにスタッフのところへ行こうとするから、思わずその腕を掴んだ。


北山は目を見開いて振り返る。


「あのさ、前みたいに渉と三人で食事に行かない……？」
「え？」
「三人でご飯に行くの楽しかったし、また行けたらいいなって」
「……」
「あ、あと、一緒に買った香水、北山に合ってたし、あげたＴシャツも似合ってると思うから」


北山は真っすぐ俺を見た。


「藤ヶ谷の気持ちは嬉しいけど、今は行けない」


返事がないのに焦って早口になった俺に届いた言葉。


「俺の気持ちの整理が付いたら、また行こうぜ。その時はまた香水も付けるわ」


最後は薄く笑い、じゃあなと未だ掴んでいた俺の手をやんわり外し背を向けた。


外された自分の手を見る。

気持ちの整理が付いたらと北山は言った。それはつまり、まだ俺が好きだということ。

そして本気で諦めようとしている。


俺を諦めたら一緒に食事にも行くし、香水だって付けるだろう。あのＴシャツを着てる姿も見られるかもしれない。


だがその時は、もう俺を好きじゃない北山だ。


それはきっと俺が望んでいた関係になるということ。



それなのに嬉しいと思えないのは何故だろう。

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