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「…俺もずっと…奏のこと大好きだった…でも…」

「そこから先は、まだ言うな」

ぐっと見上げたその瞳は、俺の弱さを突く。

「…奏」

「言わないでくれよ…。会ったばっかりじゃん、俺たち…」

そして俺へ戻るその頬の柔らかい感触が、薄いシャツを通して伝わってくる。

奏の熱を受けながら、その愛しさが湧き出すことを、止められない自分もいる。

突き放されて、ぼろぼろになっている自分を、受け止めてくれた奏の胸。

その居心地の良さと安心感は、奏からでしか得られない。

ここに来る前の感覚が戻ってくる。

お互いを、こうやって支え合ってきたんだ。

「……うん…」

不可欠な存在だったはずの俺たち。

でも、俺たちはそれぞれ個々の人間で、奏のいない人生の可能性に、俺は気が付いてしまった。

「…ごめんね」

もう、俺は何に対して『ごめん』を繰り返しているのか、分からなくなっていた。

旭への気持ちを奏に告げる決意が、段々と萎びていく。

その代わりに、また一つ、俺の鼻先に溜まった涙が、奏の髪の上に落ちた。

「……楽しかった? ここにいる間」

「うん…」

「何してたの?」

「…千切り」

「何、それ?」

「モーニングのサラダ。小指怪我させちゃったから、俺が代わりに出来るように…」

「千切りしたことあったっけ?」

「ない」

「だよな。そんなの見たことない。出来るようになった?」

「…うん。ちょっと理想とは違うスピードだけど」

「きっと、もうすぐ理想のスピードで出来るようになるよ」

「そうかな?」

「うん…そんで、俺に毎朝サラダ作って、食わせて」

「……」

「…誠の気持ちがここに残ろうとしてるのは、来てからのやり取りを見てたら分かる。俺と一緒に帰らなくても、でも、ずっとここにはいられないだろ? 帰らなくちゃいけない日は来るんだよ」

「…」

「だったら…明日、俺と帰るのも、大差ない」

「そんな話、旭としたの?」

「いや…。彼はただ、誠のことを迎えに来てやって欲しいって、言っただけ」

「奏が…その電話、取った?」

「俺は、おばちゃんに呼ばれて出たから…。呼び出したんだろうね、彼が」

帰らない俺を待っていただろうか。

でも、電話が出来たくらいだから、戻って直ぐに旭は、それを行動に移したに違いない。

旭の心の変化を知りたい。

心の底からそう思った。

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wakano(プロフ) - *華*さん» なんだか、これだけ細かく書いてると、最後までいくのに何ページ使うの?って思うんですが、きっと旭も丁寧にやろうとするだろうし、誠は、『わっきゃっ』うるさいだろうし、と思うと、なかなか進みません(汗)何より、ちょっと楽しくなってきた(笑) (2014年10月2日 22時) (レス) id: 660e647bc0 (このIDを非表示/違反報告)
*華*(プロフ) - 脱ぐってまこっちゃん男らしいね!(笑)でもそこでリードを渡さない旭も男らしい。ふたりの相手を想う気持ちと初々しさにニヤニヤしちゃいます。 (2014年10月2日 10時) (レス) id: 05fe7ce0c3 (このIDを非表示/違反報告)
wakano(プロフ) - *華*さん» 旭の母ちゃん、とっても書き易いいい人です(笑) 苦労人なんですが、それ故さっぱりしていてかっこいい。味方でよかったねという感じです。ここの場面はラストに持ってこようかどうしようかと迷いましたが、残された時間に気がつきどうするべきか考える誠を書きました (2014年9月28日 19時) (レス) id: 660e647bc0 (このIDを非表示/違反報告)
*華*(プロフ) - 怒涛の更新お疲れ様です☆思わず旭母ちゃん初対面のときを読み返しちゃいました(о´∀`о)誠からそんなこと伝えるなんて、何だか感慨深いです♪(気分はすっかり親戚のオバチャン化した応援団)旭の二人の未来を見据えての落ち着きが嬉しいです(*´∀`)♪二人共頑張れ~ (2014年9月26日 11時) (レス) id: 18f431e9cb (このIDを非表示/違反報告)
wakano(プロフ) - 天羽さん» はい、いよいよです。長かったわ〜(笑)こんなにお初に時間が掛かったのは初めてです。まあ、最初はキス止まりの話にしようと思ってたので、こういうことになってしまったんですが。話としては一ヶ月少々のお話ですが、私の積もり積もったものをぶつけたいと思います。 (2014年9月26日 6時) (レス) id: 660e647bc0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:wakano | 作者ホームページ:http://wakano.blog.fc2.com/  
作成日時:2014年5月25日 21時

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