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「…どうしても、何故誠が泣いてるのか、聞けなかった」

部屋に入ると、窓から吹き込む海の、さわやかさが今の自分の気持ちと正反対で。

さっきのやり取りや、今朝意気込んで言った自分の言葉が、旭に届いていなかったことが悔しくて。

俯いたまま、顔を上げることが出来ずに、突っ立っていた。

奏は、そんな俺の肩を軽く叩くと、俺を追い越して先に進み、持っていた小さなバッグを足元に置くと、ベッドに腰を掛けた。

そして、そんな風に言った。

「…最初は、俺に会えて嬉しいんだって、思ったんだけどな…」

「……」

「だったら、誠はもっと嬉しそうな顔するはずだし、俺に『ごめん』なんて言わないよな」

額に組み合わせた拳をあて、奏は少し笑ったように思えた。

「…子供がさ。すげー辛い目にあった時に、親にすがり付いていくように、咽び泣いたりしないよな…」

そして、顔を上げた奏の眉間は、僅かに寄せられていた。

小さな棘に引っ掛かったように。

「一人で、こんなとこに来させるんじゃなかったよ。…いや、俺の告白がさ、どういう意味だったのか、ちゃんと説明出来てなかった、俺のミスだ」

冷静で、頭が良くて、人一倍努力家で。

俺だけに、物凄くやさしい。

俺はそんな奏のことが、大好きだった。

ここで、旭に会わなければ。

今でもきっと世界で一番、誰が好き?と問われれば、『奏』って答えた。

「…ドイツに行くためのモチベーションだったんだ。勿論、誠も一緒に連れて行くための。誠が、俺がしたことで、どんな反応を見せたとしても、俺の気持ちだけははっきり伝えておけばよかった。二人で、これからもずっと一緒にいようって。まだ、俺たちは自分達だけで生きているわけじゃないけど。いずれそう出来るようになっても、変わらず俺の傍にいて欲しいって」

そして、その両手を差し出した。

俺の両手を求めて。

「こっちに、来て。誠」

声が、静かに響く。

奏の前に立つと、奏は、俺の両手の指先を軽く取り、持ち上げた。

「ちゃんと、準備が出来てから、言いたかった。準備が出来たから、迎えに来たんだ。俺と行こう。俺はきっと、誠を泣かせたりしない。今までと同じように、二人でいよう」

右手を握っていた指先がパラリと離れ、腰に回り、引き寄せられる。

俺の胸の下に、その顔を埋めた奏は、小さく、

「…すきだ」

と呟いた。

俺はその頭をぎゅっと、抱きしめた。

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wakano(プロフ) - *華*さん» なんだか、これだけ細かく書いてると、最後までいくのに何ページ使うの?って思うんですが、きっと旭も丁寧にやろうとするだろうし、誠は、『わっきゃっ』うるさいだろうし、と思うと、なかなか進みません(汗)何より、ちょっと楽しくなってきた(笑) (2014年10月2日 22時) (レス) id: 660e647bc0 (このIDを非表示/違反報告)
*華*(プロフ) - 脱ぐってまこっちゃん男らしいね!(笑)でもそこでリードを渡さない旭も男らしい。ふたりの相手を想う気持ちと初々しさにニヤニヤしちゃいます。 (2014年10月2日 10時) (レス) id: 05fe7ce0c3 (このIDを非表示/違反報告)
wakano(プロフ) - *華*さん» 旭の母ちゃん、とっても書き易いいい人です(笑) 苦労人なんですが、それ故さっぱりしていてかっこいい。味方でよかったねという感じです。ここの場面はラストに持ってこようかどうしようかと迷いましたが、残された時間に気がつきどうするべきか考える誠を書きました (2014年9月28日 19時) (レス) id: 660e647bc0 (このIDを非表示/違反報告)
*華*(プロフ) - 怒涛の更新お疲れ様です☆思わず旭母ちゃん初対面のときを読み返しちゃいました(о´∀`о)誠からそんなこと伝えるなんて、何だか感慨深いです♪(気分はすっかり親戚のオバチャン化した応援団)旭の二人の未来を見据えての落ち着きが嬉しいです(*´∀`)♪二人共頑張れ~ (2014年9月26日 11時) (レス) id: 18f431e9cb (このIDを非表示/違反報告)
wakano(プロフ) - 天羽さん» はい、いよいよです。長かったわ〜(笑)こんなにお初に時間が掛かったのは初めてです。まあ、最初はキス止まりの話にしようと思ってたので、こういうことになってしまったんですが。話としては一ヶ月少々のお話ですが、私の積もり積もったものをぶつけたいと思います。 (2014年9月26日 6時) (レス) id: 660e647bc0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:wakano | 作者ホームページ:http://wakano.blog.fc2.com/  
作成日時:2014年5月25日 21時

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