ただ、誰かを守りたかった【Fate】【僕のヒーローアカデミア】 (ページ39)

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参拾玖ページ39

「……っ、は……！」

受けた槍のあまりの重みにAは呻いた。令呪を使用しての移動になぜ間に合ったのか、いま考える時間はない。彼女の盾が、ランサーの槍を防いだことだけが事実だ。ついで、彼女は叫ぶ。

「領王(ロード)！」

サーヴァント同士の戦いならば、攻撃を防いだ一瞬でも隙とするには十分だ。その間に追いついたバーサーカーが槍を振るえば場所を移動しただけの先ほどまでの戦いの焼き増しとなる。
広い場所での戦いがどちらにとっても望ましいのか、再び戦場は同じ場所に移動してしまったのだけれど。

(まず……)

ぐら、とAの体が傾いだ。体内の精気(オド)が足りていないためだ。バーサーカーに供給する分には足りているが、魔術を用いての戦闘訓練はそれほど積んでいないため、魔術回路が今まで以上に痛みを訴えている。

(ふざける、な……！)

サーヴァントがまだ戦っていて、相手のマスターも健在。なんなら死霊もまた迫ってきている。こんな状況で倒れていられるかと、Aは意地で意識を繋いでいる。
『強化』を施しているため、五感の性能は向上している。だから、相澤の現状であったり、緑谷や蛙吹、峰田の状況もわかっている。ああそうだ、クラスメイトがピンチなのに、寝ていられるはずがなかった。そもそも背にはクラスメイトと負傷した教師がいるのだから。

「もろもろの民よ、これを聞け。すべて世に住む者よ、耳を傾けよ。低きも高きも、富めるも貧しきも、共に耳を傾けよ」

は、と短く息を吐き、何度も繰り返した詠唱を再び始めた。
片手は盾に、もう片方の手は痛いくらいにロザリオを握りしめている。

「まことに人はだれも自分をあがなうことはできない。そのいのちの価(あたい)を支払うことなどできはしない」

握りしめた手からは血が垂れる。ランサーとバーサーカーは依然として戦っており、マスターはようやく気が付いたのか霊をAに向けてはなった。

「たとえ彼らがその地を自分の名をもって呼ぼうとも、墓こそ彼らのとこしえのすまい、世々彼らのすみかである。人は栄華のうちに永くすまうことはかなわぬ」

唄う、詠う。
霊を黒鍵で消滅させる。
詠唱は最後の段階に。

「───滅びさる獣に等しく」

十字を切る。霊のことごとくが消滅する。
それを契機としたのか、ランサーとそのマスターは黒霧や死柄木とともに去っていった。