ただ、誰かを守りたかった【Fate】【僕のヒーローアカデミア】 (ページ30)

今日:10 hit、昨日:0 hit、合計:24,050 hit

参拾ページ30

ぽちゃん、と水音が響いた。
水面につかぬよう結わえられた髪が揺れる。

肩まで湯に浸かり、Aは深く息を吐いた。

「──まァ、なるようにしかならんか」
「死にたいわけじゃアないんだけどな」

・

・

・

(……よくもまあ、これだけ)

呆れる程の数のマスコミが校門の前にごったがえしている。
オールマイトが雄英に赴任した情報をつかみ取ったのだろう。よくやるものだ。

ぎゅうぎゅうに混みあった中を少しずつ進む。始業には間に合うだろうが、ほんの少しじれったい。

「──いッ」

ようやく校門をくぐったあたり、昇降口に行こうと足を速めた時だった。
ぐい、と髪を後ろから引っ張られるような感覚があったのだ。何かに絡まったのだろうか？

「──ごめん、俺のボタンと絡まったみたいだ。端の方に外れるから、合わせてくれる？」

他クラスの男子生徒のものだったらしい。謝罪と了承を返し、邪魔にならないように人の流れから外れた。

「──すみません、どんな様子ですか？」

後ろを向けないので、相手に聞くしかない。
感触としてはかなり絡まっていそうだが。

「ブレザーのボタンをうまいこと飲み込んでるよ。外すから少し待ってて」

「すみません……」

こうなってしまえば私にできることはない。手持ち無沙汰と申し訳なさに顔がうつむいた。

「あ……」

そうこうしている内に、予鈴が鳴った。もう少しで遅刻になってしまう。

「あ、あの、ハサミを出すので、それで髪を切っていただけると」

「いや、その時間もないだろ」

苦し紛れの提案はあっさりと一蹴され、間をおかずぶちっという音がする。
え、と嫌な想像が頭の中を駆け回るが、急ごう、という言葉とともに手を引かれ、昇降口までかけた。

「髪にボタン付いたままで悪いけど、このままじゃ遅刻だからこのまま行って」

「でも、貴方のボタンが……」

「予備があるからいいよ。ほら、早く」

嫌な想像はどうやら的中したらしい。確かにこのままでは遅刻だが……。

(ふむ。後一分で遅刻となるぞ、マスター)

唐突な念話に面食らう。

「すみません、ありがとうございました。あ、私は幸村Aと言います。本当に、ありがとうございました！」

助言、というより忠告に従い、名前だけ名乗って教室に急いだ。
男子生徒の名前を訊く時間がなかったのが残念でならない。