サヨナラ僕の可愛い人【三途春千夜】

9 ※閲覧注意※ ページ10

発砲音に強く目を瞑って痛みに堪えてる




堪える痛みもないくせに






「おい」



『…春千夜、君』




「お前には旦那が居るんだろ。」



「ならこんな所でくたばれねぇだろ」





『えッ…』


荒くなる呼吸を零す唇ももう誰かのものになってしまった。





『私、結婚なんてしてないよ…！』






この期に及んで嘘を付くコイツに腹が立つ




「ッるせぇ！テメェ命乞いならもっと上手な嘘つくんだな」




目線を合わせて額を銃口で小突く




『嘘じゃない…私にはずっと』



やめろ




『ずっと、ずっと…』





やめてくれ、






『春千夜くんしか…』



「だから！！！命乞いなら…｣


『命乞いじゃない！！！』




細くて小さい体からどうすればそんな声が張れるのか






『命乞いじゃない…愛してるのは春千夜くんだけ』





やめてくれ


やめてくれやめてくれ。



「じゃあなんで…」




手から力が抜け銃が落ちてしまう







力の抜け行き場のない手で顔を覆う





「なんで…結婚なんて」





今俺めちゃくちゃ情けない。




『だから結婚してないよ…』





「苗字はなんで変わってんだよ！！」





叫ぶと伸ばしてきてた手が止まる





『それは…』


俺が知らないとでも思ってたのか。



言葉が詰まり沈黙が2人を包む




早く言えよ


俺が納得出来るような理由を持ってこい





俺を傷付けない為に、なんてチープな答えを言ってくれたら




俺だって怒りに任せて始末できたかもしれないのに







『話せば長くなる…けど私は結婚してな』






彼女の言葉を遮る銃弾の音に顔を上げる









咄嗟に崩れ落ちる彼女を抱き留める








「その女の言葉は嘘なんてねェぜ三途」






「テメェ！！！コイツは俺の獲物って言っただろ！！！！」




落ち着いてた息が途端に浅くなる




貫通してる。




止血を試みても溢れて止まらない




『春…千夜くん、』





耳元で聞こえる声は時折ヒューヒュー言ってる



「もういい、喋らないでくれ。余計血が…」


『もう、いいよ。春千夜、くん』







『私、知り過ぎちゃったから、こうなること、分か、ってた』




俺の真新しいスーツに血が広がる





『はる、ち…よく 』




意識が朦朧としてるのだろう焦点が次第に合わなくなる





「俺はここにいる。」




『 だい、すき 』


大きな目を閉じると涙が伝う


嗚呼、もう何度呼んでも二度と起きてはくれないんだ。

10→←8

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す