何度も繰り返す恋を【我妻善逸】

36曲目 ページ36

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「こちらです」

「ありがとうございます」









Aちゃんがいると思われる部屋に案内してもらう。そこで介護士さんとは別れて、大きく深呼吸をする。覚悟を決めて恐る恐るドアを開く。









「だあれ？」









何にも変わらない、懐かしくてどうしようもなく聴きたかった声が耳に入ってくる。









ただ変わったことは、彼女が俺を見る目だけ。今までみたいに愛情を孕んだ熱い視線を向けてくれるAちゃんはもういない。









「初めまして」









屈託なく笑う顔も、笑うと片頬だけ笑窪ができるところも、何ら変わりはないのに。









彼女の中に俺は残っていない。









覚悟はしていたつもりだった。だから今を笑わせようと、今を一緒に創っていこうと必死だった。けれど、俺と彼女の時間は半年前で止まったまんまだ。









それでも。









「初めまして、俺は我妻善逸です。歌手をしています。今日はAさんを喜ばせるために来ました」

「え！私なんかのためにですか？うれしいなぁ」









綻んだ顔を見て、君の夫だよと肩を掴んで言い聞かせたかった。なんでいきなり消えたんだと問い詰めたかった。俺のことを忘れないで欲しかったと、今になってどうしようもなく叶わない願いが、溢れんばかりに浮かんで消化しきれない。

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