4・魂形 ページ6
島の少女を無事連れ出す事に成功した私は、彼女と共に流れ島を歩いていた。
不思議と笹舟に乗るまで誰にも会わずに来ることが出来た。幸運だ。
過ぎた事は頭のすみに追いやり、流れ島の夜道を黙々と歩く。
灯りを持ってくれば良かったかな、と思っていたが、どうやらその必要は無かったらしい。少女も迷う様子なく歩いて行く。
やがて視界が開け、広い場所に出た。
これまでの石畳とは違い、剥き出しの地面に無数の剣が突き立てられている。
すぐにそれが何なのかに思い当たった。
デストロイヤー君が云っていた『たくさんのお墓』なるものだろう。
砂葬の風習のある泥クジラでは中々お目にかかれないので、つい私は立ち止まって眺めた。成程、中々に素敵だ。
それに気付いた少女も立ち止まる。
「……お墓が気になるの?」
気になる、と私は答えた。そして泥クジラには埋葬の風習が無いことを説明する。一通り最小限の会話が済むと、それからまた歩き出した。
出来れば自分の葬儀は砂葬より埋葬がいいな、と思いながら。
墓場の中心に建てられた、崩れかけの廃墟へと進む。ふと空気が変わった事に気付く。
試しにサイミアを発動させてみようとするが、予想通り身体には念紋すら浮かばない。
どうやら体内エリアと同じく、ここではサイミアが使えないようだ。
「ここよ」
少女に続いて部屋に入ると、すぐにそれが目に付いた。
石盤に杭打たれた、異形の生き物。それが生きているのを示すように一定のリズムで脈を打っている。
「これがこの船の魂形(ヌース)。魂形・リコス」
「……リコス」
その生き物の名を口にしてみる。その見た目とは違い、可愛らしい響きだ。まるで女の子の名前みたいな。
私は云った。
「この子、人の感情を食べるんでしょ?」
「……そう。私の感情もリコスに与えていたの」
だから私には心が無いの、と少女は呟いた。
そうだろうか、と私は思ったが黙っていた。寧ろ人の感情がこんな生き物ごときで完全に消してしまえるなら苦労は無い。
そう……その筈だ。と思う。多分。
「それで、あなたが魂形に案内して欲しいと云ったのは、何故?」
何故。
「……ふっ、ふふふ、あはははっ!」
思わず笑いが込み上げてきた。勿論、少女の質問が可笑しかったからだ。
私は彼女に微笑みながら魂形に近寄って行く。
「そんなの、決まってるじゃない」
指先でそっと魂形の表面を愛でながら私は云った。
「心、消してもらおっかな、と思って」
それから躊躇いなく魂形の中に手を入れた。
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猫目 - 今更ながらコメント失礼します!同じく私もシュアン推しなので見つけたときめっちゃテンション上がりました!見ていらっしゃるかは分かりませんんが更新応援しております(^^) (2019年3月26日 20時) (レス) id: 619380b1ab (このIDを非表示/違反報告)
りぃふ - はじめまして。今更コメント失礼します!私はクジ砂中でシュアンがとても好きなので、この小説を見つけた時はすごく嬉しかったです!このお話のおかげで今だいぶシュアン沼にハマってます…笑お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています。(*^^*) (2018年6月24日 19時) (レス) id: f3d7bfc71d (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - るりさん» ありがとうございます!同士嬉しいです!最近滞り気味ですが、時間を見付けて更新します! (2018年2月20日 17時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
るり - 初めまして!私も団長さんが好きです!とても良い設定、話で好きになりました。これからもがんばってください続き待ってます (2018年2月16日 17時) (レス) id: 1a80d02d72 (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - 裕貴さん» 裕貴さん、はじめまして!私も団長さんが一番好きなので、そう言って頂けると嬉しいです。皆様のコメントを励みに、これからも頑張ろうと思いますので、どうぞよろしくお願いします!コメントありがとうございました! (2017年12月22日 6時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なつみん | 作成日時:2017年12月17日 16時