不信と思惑 ページ38
任務当日。
蜜をとかしたような雨まじりの風が顔に当たる。雨音が少し、不安にさせた。
｢着きました。ここからはゾムさんとAさんだけになりますね……｣
｢A。行こか｣
ゾムは助手席のドアを開け、私に手を差し出す。
それから、刺繍が施されたブルーのドレスを身にまとった私に上着を着せ、私が転ばないように支える。
駐車場の外は雨が夜空を溶かしているようだった。雨音が、今新たに降り始めたかのように勢いを盛り返す。
｢Aさん！｣
ゾムが車のドアを閉めようとしたところでショッピさんに声をかけられる。振り返ると、憂わしげな表情のショッピさんが手を伸ばそうとして、引っ込めた。
｢気をつけて……くださいね｣
｢……変な雰囲気にしないでくださいって！……大丈夫です。私の任務は簡単だし、ゾムもついてますし｣
車のドアが閉まると、ショッピさんは車のガラス窓から不安げな表情で私を見つめたが、そのあと車を発進させた。
ゾムは私の手を引き、煌びやかな装飾が施されたホテルのエントランスに入る。
｢ねぇ、ゾム……｣
｢黙って｣
ゾムは小声で私を牽制する。手をぎゅっと強く握りしめると、ゾムは手を握り返した。
｢いらっしゃいませ。当ホテルは会員制となっております｣
｢予約してる斉藤ですけど｣
ゾムは荷物から一枚のカードを取り出し、フロントに見せる。
フロントはそれを両手で受け取ると、機械的に微笑む。
｢これは、これは。大変失礼致しました｣
そう言って受付嬢は211と書かれた部屋のキーをゾムに手渡す。
ベルパーソンが荷物を受け取り、営業用の感じのいい笑顔で私たちを部屋に案内した。
｢わ……すご。スイートルームなんだ……｣
｢A。こっち｣
ゾムは部屋の奥で私に手招きをする。そしてベルパーソンが扉の鍵をあける。
なぜ部屋の中に鍵が、と思ったのもつかの間、扉の向こうには薄暗い通路が続いていた。
｢A。手ぇちゃんと握っといてな｣
｢うん……｣
ゾムは小声で私に囁く。私はゾムの手を握り薄暗い通路を歩く。ハイヒールの音が反響する。
｢お客様、こちらでございます。そちらの方は……｣
私は握った手を離し、ゾムの腕に絡みついた。
｢ああ、こいつは俺の連れだから｣
｢……大変失礼致しました。どうぞこちらへ｣
前を行くベルパーソンは両開きのドアを開けた。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1799人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みやこ - 貴方様が紡がれるストーリーやキャラの描写、言葉選び全てがあまりにも素晴らしく、飲まれるように一気に拝読させていただきました。zmと夢主の関係性やこの後の展開がどうなるのか思いを馳せながら続編が開く時が来るのをとても楽しみにしております。ご自愛ください。 (10月15日 2時) (
レス) @page50 id: 2340b31398 (このIDを非表示/違反報告)
ぬ - もっと早くに見つけてればよかった…！！！めちゃめちゃ好きです、続編開くの待ってます…！ (8月25日 14時) (レス) @page50 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
暇人パーリナイ(プロフ) - とても素晴らしい作品で愛読させていただいてます、続編が開放される時を楽しみに日々過ごしています。更新頑張ってください。 (2020年10月11日 22時) (レス) id: 6c369c24d6 (このIDを非表示/違反報告)
mailnoadodapo(プロフ) - 何かもう最高すぎてやばい……やばい!!←大事なことなので2回言いました、貴方の作品初めて読んだんですけど、まじで好きです (*´ω`*)これからも推させていただきますね (2020年7月8日 4時) (レス) id: 71f963574a (このIDを非表示/違反報告)
おじ - 久しぶりの更新とても嬉しいです！疲れない程度に更新頑張ってください！ (2020年1月5日 20時) (レス) id: 9cde916c26 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かよ | 作成日時：2019年5月16日 0時
