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Aに急かされたゾムは7枚のピザを受け取るために、入口付近へ向かった。
辺りはもうすっかり暗くなっている。暗闇はゾムにとって苦ではない。むしろ、好きだといっていい。暗闇は自分を隠してくれるから。
この時間帯は人が既にほとんど帰宅していて、人通りは少ないが、誰かに見つかると面倒なので壁をつたい、窓と窓の間を飛び移っていく。
ふと、中庭の方に目をやると、手で顔を覆っている女と抱き締めている男を視認した。この2人には見覚えがある。
「大先生と……ミレイか」
シャオロンがAから【勇気が出る薬】と称して受け取ったただのラムネを噛み砕いて、ミレイを呼び出したあの時の光景が蘇る。
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「突然呼び出して……どうしたの?」
「俺……ミレイ伝えたいことがあって……」
ミレイは笑顔で「なにかな?」と微笑む。シャオロンは暫く黙り込んだ後、ミレイを真っ直ぐ見据えて続けた。
「俺……ずっと、ミレイのこと追いかけてたん……。好き……で……っ!」
ミレイは両手を口を抑えるような仕草をした後、まばたきをした。このときゾムには見えた。手の下に隠した妖しい笑みを。
「シャオちゃん……私、その気持ちがきけて嬉し……」
「言わないでくれ!……好きだったんだよ……」
ゾムは野次馬の気持ちで、こっそり陰からことの成り行きを見ていた。一体いつ思いを告げるのだろうか、楽しんでいた。
「ミレイには本当に感謝してる。ミレイのお陰で、本当に好きな人に気づけたんだ」
そのとき、ゾムはシャオロンが何を言っているのか理解が及ばなかった。ただ、風向きが変わったのは感じられた。空気が変わる。ミレイの表情が僅かに崩れる。
「ミレイ、今まで迷惑かけちまって、ごめん。もうこれからは付きまとわないようにするから、それを伝えに来た」
「私……聞きたくなかったな」
ミレイは瞳を潤ませて、シャオロンに1歩近づき、シャオロンを見上げた。
「私は好きだよ、シャオちゃんのこと」
「最後まで優しいんだな、ミレイは。もういいんや。普段のミレイを見てればわかるで」
シャオロンは諦めたような笑顔で、ミレイを拒否するように1歩、後退した。
「呼び出しちまって、ゴメンな。話はそれだけやから……」
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ゾムはピザを受け取り、先程通ってきた道を逆走していく。
「本当に好きな人って……誰なんやろうな」
青黒い夜の色が頭の上にひろがる。星ひとつ見えない夜空を見上げ、ゾムはぽつりと呟いた。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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みやこ - 貴方様が紡がれるストーリーやキャラの描写、言葉選び全てがあまりにも素晴らしく、飲まれるように一気に拝読させていただきました。zmと夢主の関係性やこの後の展開がどうなるのか思いを馳せながら続編が開く時が来るのをとても楽しみにしております。ご自愛ください。 (10月15日 2時) (レス) @page50 id: 2340b31398 (このIDを非表示/違反報告)
ぬ - もっと早くに見つけてればよかった…!!!めちゃめちゃ好きです、続編開くの待ってます…! (8月25日 14時) (レス) @page50 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
暇人パーリナイ(プロフ) - とても素晴らしい作品で愛読させていただいてます、続編が開放される時を楽しみに日々過ごしています。更新頑張ってください。 (2020年10月11日 22時) (レス) id: 6c369c24d6 (このIDを非表示/違反報告)
mailnoadodapo(プロフ) - 何かもう最高すぎてやばい……やばい!!←大事なことなので2回言いました、貴方の作品初めて読んだんですけど、まじで好きです (*´ω`*)これからも推させていただきますね (2020年7月8日 4時) (レス) id: 71f963574a (このIDを非表示/違反報告)
おじ - 久しぶりの更新とても嬉しいです!疲れない程度に更新頑張ってください! (2020年1月5日 20時) (レス) id: 9cde916c26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かよ | 作成日時:2019年5月16日 0時