危機回避 手段 ページ32
しるこの「またね」という言葉を置き去りに、私はしるこ家を離れた。
今週からはもう行かない事を決めている。
反対されるからと誰にも話さず、2人の通知をオフにして連絡が来ても自分から確認できないようにした。
じらいちゃんとかるちが来た辺りから、皆より己の事を優先し始めている自分に気付いた。
相手の事を考えるならば、まだ帰らないでとか、また来てなんて言葉は出ない。
贅沢が当たり前になる前に、離れることが最善だと思った。
例え2人が、みんなが、何を思っていても。
深く考える前に思考を振り払った。
久しぶりの出勤でただでさえ憂鬱なのに、これ以上気が重くなるようなことは避けたい。
いつものように車を停めて、社内に入る。
上司以外の職員に対する連休の言い訳を、どうしようかと考えながらオフィスの扉を開けた。
？「あ、先輩！お久しぶりっす！」
あー、早速帰りたい。
真っ先に話しかけて来たのは、普段から執拗にまとわりついてくる後輩だ。
正直名前を言うのも嫌なので、私の中では仮にTとしている。
私が出勤を憂鬱としている理由は8割こいつにある。
T「何してたんすか？彼氏と旅行？」
『何でもいいでしょ』
簡潔に言えば、こういう所が面倒臭い。
プライバシーを親の腹の中に置いてきたのかこの男は。
T「あれ、違いました？そもそも彼氏居ないとか？」
『いや…』
T「え、図星です？」
『な、そんな訳ないでしょ』
T「ですよね〜」
見栄を張って咄嗟に嘘をついたことを、瞬時に後悔した。
でも図星と認めた時の方が、私の不快度が高まる事は容易に想像がつく。
アドリブにしてはまだマシな判断のはずだ。
T「俺、先輩の彼氏見てみたいな〜」
『は？』
T「金曜日に数人で飲み会やるんで、そん時連れて来てくださいよ！」
『え？いや、まっ…』
T「でも、そうなるとまだ人数足りないか。俺集めてきますね！」
『おい、話聞け…』
言い終わる前にTはさっさと行ってしまった。
未だかつて、これ程話を聞かない奴が居ただろうか。
くそ…だから嫌なんだこいつと関わるのは。
まぁいいや、しるこに彼氏役でも…
思いかけて止まる。
今は連絡出来ないんだった。
となると、他に誰かあてになる人は…
暫く考えた末、LI〇Eを開いた。
《先生、一生のお願いがあります。》
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作者名：梔子 | 作成日時：2022年4月3日 11時
