拗れた訳 ページ6
Aが部屋を去ったあと、室内は静寂に包まれた。
それを最初に破ったのは硝子だ。
「悟、お前は五条家当主だろ。こんなに拗れる前に周りを捩じ伏せてさっさと婚姻届に判を押してAを娶れば良かったんだ」
「そうしたいのは山々なんだけどねぇ。マイキーくんの呪いが特級に指定されて、梵天の事がニュースに取り上げられてからと言うもの、当のAが頑なでさぁ。おまけに、百鬼夜行の前にAが傑に拐われて利用されたせいで、彼女は上層部に厄介者扱い……」
傑が百鬼夜行を行う為に高専に宣戦布告しに来たあの日の早朝、Aは傑に拐われた。
準1級術師で多少腕に覚えのあるAがそう簡単に捕まるわけはないが、特級の傑とその仲間や呪霊が複数で来れば、ほぼ成す術はない。
傑がAを拐った理由は単純。
彼女の術式で傑たちの動向がバレないようにするためだった。
おまけに向こうはAの術式でこっちの状況が把握できるという、何とも一石二鳥な手段と言うわけである。
『私に協力すれば君の弟の呪いを呪霊操術で祓って取り込んであげよう。だが断れば、君も君の弟も命はない。弟の呪いを解くことはAがずっと願っていたことだろう?悪くない話の筈だ』
百鬼夜行のあと、ミゲルから聞き出したAが捕らえられている場所へ助けに行った時、呪術が絡んだ縛りで傑に脅されたと彼女は言っていた。
「……Aと恋人になれたのもそうだけど、その関係が続いているのも奇跡みたいなもんよ」
硝子や恵の前でそう自分で呟いて。
でも、その現状を変えられない自分を情けなく思う。
百鬼夜行の一週間後、Aは上層部から1ヶ月の謹慎を言い渡された。
本当はもっと重い罰を下される筈だった。
けれど、上層部は傑が呪詛師に認定されて以降、彼女に術式で定期的に傑の居場所を探らせていたのだ。
それだけじゃない。
事あるごとに、上はAに術式を使わせてきたんだ。
今まで散々こき使っておいて、それはないだろう。
『お前たちの今までの行いは夏油傑がAにさせたことと何らかわりない。彼女をそこまで罰するなら、お前たちも彼女にさせてきたことの罰を受けるべきだ』
そう言えば、何だかんだと文句を言いながらも、上層部は意外とあっさり引き下がった。
つまりは、図星だったらしい。
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作者名:月見 | 作成日時:2023年7月1日 13時