2018年─5月25日 硝子とお茶 ページ22
「硝子〜今日も来たよ」
私が呪詛師に狙われていると分かってから約一ヶ月半が経った。
あの日から私はこうして硝子と決まった時間に会ってコーヒーや紅茶を飲みながら話すことにしている。
「………うん。一週間後も私はちゃんと硝子とお茶してるよ」
「それは良かった」
決まった時間に私と硝子がお茶をして、私が硝子の未来を覗く。
そうすれば、私は自分の未来を覗かなくても、自分の状況をある程度把握できるし、おまけに呪力消費も抑えられるというわけだ。
それでも、一週間後の未来を覗くのはかなりの呪力を消費するけれど。
とにもかくにも、私たちが平和にお茶をしている未来が見えている間、私は無事ということになる。
「失礼します」と優太の声が医務室に響く。
中に入ってきた彼が私を見付けて「あっ、Aさんもこちらでしたか！」と、その表情がパッと明るくなった。
「挨拶したくて探してたんですよ」
「挨拶？」と考えて、ハッとする。
「あっ！もしかして海外出張の出発って、今日だった？えーと、………ケニアだっけ？ミゲルの母国に行くんだよね？」
「はい」
ミゲルは百鬼夜行で夏油の仲間だったけれど、悟と戦って悟に気に入られていた。
ミゲルは悟の根回しで呪術師として悟にこき使われる事になったらしい。
百鬼夜行での戦いのトラウマもあるから、ミゲルは悟のこと嫌いみたいだけど。
「特級に返り咲いて間もない上に、新学期も始まって数ヶ月なのに大変だね」
言えば、優太が寂しそうな表情をする。
「はい。真希さんたちに会えないのは寂しいです。でも、任務ですから」
「気を付けてね。飛行機の時間大丈夫？」
言えば、優太が時計を確認する。
「あっ、そろそろ出ないと」
「じゃあ、麓まで送るよ」と私が立ち上がると、硝子も一緒に見送る事になった。
麓へ続く鳥居の前に近づくと「おーい！優太〜！」と手を振るパンダの姿がある。
その隣には棘がいて「ツナツナ！」と何やら訴えかける。
「遅っぇぞ！優太！！何処まで挨拶に行ってたんだよ？」
腕組みした真希が何やらツンツンしていた。
寂しさを誤魔化しているのかもしれない。
「ごめん、ごめん」と頭を掻きながら駆け寄る優太。
そのまま麓を目指して歩いていく。
「これだけ同級生が勢揃いしていたら、私たちは不要だったかもしれないな」
硝子の呟きに「そうだね」と頷きながら、4人の後ろを付いて行く。
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作者名：月見 | 作成日時：2023年7月1日 13時
