撤退 ページ13
「それにしても、少し変な感じね……」
「何がですか?」
呟くと優太が私を見た。
「私たちは予め1級の呪霊って聞いてここに来た。話によると肝試しに来た人達が行方不明なんだったわよね?」
「はい」と二人が頷く。
「確かに、糸で拘束されては動けなくなるし、あの呪霊はかなり動きも速かったから、厄介な呪霊だった。けれど、攻撃は糸だけよ。それだけで1級というレベルかしら?……それにあの形、まるで受胎じゃない?」
「言われてみれば、サナギみたいでした」
優太も顎に手を当てて考え込む。
「………。もう少し、先へ進んでみましょうか」
私の提案に頷いた二人を確認すると、立ち上がって大きな穴の前に立つ。
そこから私が地下へ飛び降りると、二人が付いてくる。
「玉犬」
恵が再び白と黒を出す。
室内の探索にはもってこいの式神だ。
私はポケットに入れていたライターの火を付けると、その明かりを頼りに進んでいく。
と、玉犬達が走り出した。
三人でその後を追うと、ひとつの部屋の前で止まる。
顔を見合せて頷くと、互いにいつでも動ける準備に入る。
私も刀を鞘から抜いて、準備が終わると部屋の扉を勢いよく開けて中に転がり込んだ。
「っ!?」
「なんだ!?」
「これは!?」
そこには、今回私たちが祓う筈だったと思われる呪霊が先ほどの呪霊の糸で拘束されていた。
今は再生済みのようだが、呪霊の体液が床に飛び散っていることから戦闘があったことも窺える。
そして、その直ぐ傍に爆弾があった。
ピッ、ピッと機械音を立てるそれはタイマー式で、あと5分で爆発するようだ。
「……これは、さっきの呪霊の仕業。……だけじゃないわね」
爆弾がある以上、どう見ても人の手が入っている。
まさか、呪詛師が近くに………?
サッと刀に呪力を込めて呪霊を真っ二つにして祓う。
「時間がない!!急いで戻りましょう!ここは危険だし、新田ちゃんを一人にさせておくのは心配だわ!!」
私たちは急いで帳の外にいる新田ちゃんの元へ駆け出した。
*****
廃病院から少し離れた木の上。
そこに体を預けていた男がピクリと反応する。
「失敗か。……流石に特級呪術師が一緒なのは誤算だったね」
「えぇー?失敗?」
刀と握手している青年が残念そうに息を吐く。
「そうと分かれば早く帰るよ。私はまだ呪術師に見つかる訳にいかないからね」
呼び出した呪霊の背中に飛び乗って、二人はその場から遠ざかっていった。
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作者名:月見 | 作成日時:2023年7月1日 13時