浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ43)

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『痒いとこは?』

「大丈夫」

シャンプー台に移動して
顔にタオルを掛けられた状態でいつも思う

誰かに頭洗ってもらうのって
どうしてこんなに気持ち良いんだろう

眠気が襲ってきそうになるのを必死に堪える

疲れてる中、俺の為だけに

閉店後にも関わらずやってくれてるのに

俺だけ寝るなんて

『…眠いなら寝なよ〜』

何とか耐えてる俺に、更に誘惑してくるから

タオルの下で、目を無理やり見開いて

「…眠くない」

嘘を言い張れば、ぷっ、と吹き出す笑い声が聞こえて

『ちょいちょい首振ってますけど』

「…もろバレなんじゃん」

俺の頑張りはやっぱ無駄らしい

気付かない内にそんな行動をしてた自分に
思わず笑ってしまった

彼女もそれにつられたのか
笑いながら、洗い終わった俺の髪をタオルで軽く拭いて

『終わったから、体起こすよー』

「はーい」

シャンプー台からまた、カット台へ

結構カットしたから
乾かす時間もそうかからずに、ドライヤーも終わって

「さっぱりしたわ」

『軽くなったっしょ

あとちょこっと切って終わりだから』

耳の辺りや、前髪を
もう少し切り揃えてもらって完了

『こんな感じで』

折り畳みの両面鏡で後ろを写し

俺はそれを目の前の鏡越しに確認する

久々に切ってスッキリして
もちろん問題無いんだけど

「…どう?A的に」

敢えて仕上がりを聞いてみる

『んー、何時ものマサイよりは
ちょっと短めになってるから

動画見てるファンの皆さんは
もしかしたらちょっと違和感あるかも

でもまぁ、直ぐに慣れるかな』

なんて、第3者目線で答えをくれた

でも俺が聞きたいのはそうじゃなくて

「Aは?」

『え?』

「オーダー通り切ってくれたけど

…1番は、Aに良いと思ってもらいたいの」

彼女が、どう思ってるか

それを聞かせて欲しいと言う俺に

Aは持っていた鏡を
近くにある台に置いて

目の前の鏡越しに、俺を見つめる

そして、少し屈んで

後ろから俺を抱き締めた

「っ…A?」

『…私は、今日の感じも、カットする前でも

どんなマサイも大好きだよ』

そう言って

俺の頬に軽くキスをして

笑顔でまたぎゅっと抱き締める

やっぱり俺は、Aには敵わない

「…今度すっげぇボサボサになってから

同じ質問するからな」

『それカットし甲斐がありそう

今度絶対やって!』

いたずらっぽく笑って

いつも欲しい答えをくれるAが、俺は好き

end