ネコ騙し合い愛【黒尾鉄朗】

告白と理由 ページ39

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その‛機会’というものは、思ったよりもタイミングよく訪れるもので。






「───ごめんなさい」





迷うことなく頭を下げた私に「やっぱりか」と男が呟く。


顔を上げると、男が少し赤らめた頬をポリポリ掻いている。








「誰とも付き合わないって、本当なんだね」

「□□くんは、私のどこを好きになってくれたの…？」







男が私から視線を外しながら、少し照れたよう言った。








「いつもニコニコしてて楽しそうだし、あと」








少しばかり控えめに、でも直球に「顔」と答えた。



そうだよね。だって彼は、私のこと知らないんだもん。



どうせみんなフラれてるからダメもとでとか、運試しでとか。そんな軽い気持ちなんでしょう。



そんな軽々しく口にできる言葉じゃないのに。



死ぬほど恥ずかしくて。でも頑張って、勇気を振り絞ってやっと口にできた言葉なのに。



私のそういう、薄情な目で人を見てしまうのは、悪い癖だ。









「私、付き合ってる人がいるの」









男が大袈裟に「えっ！」と短い声を上げる。









「もしよかったら、教えてくれないかな。相手の人」









教える必要がどこにあるのだろう。



知ったところで、どうするのだろう。



私がクロのことを好きなのは変わらないし、教えたところで今目の前の彼のことを好きになることは、絶対にない。



私が黙っていると「無理にとは言わないけど」と男が言うけど、少し期待しているような表情が垣間見えた。



今までずっと、人の顔色を窺って生活してきたから、なんとなくわかってしまう。









「…」







言ってしまおうか。言ってしまえば、隠しておく必要もなくなる。









「…三年の、黒尾、先輩」









言ってしまった。




私が少し躊躇しながら、でも意を決して小さい声で言うと、男は少し間をおいて「へ、へえ。そうなんだ」とあまりピンときていない様子で言った。









案の定、数日後にはクラス中に広まっていて、登校するなり女子たちが私の机を取り囲んだ。








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