努力と本音 ページ7
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練習場に行くと、部長がリズムに合わせて手を叩いていた。
私は深く深呼吸を一回して、ドアに手を掛けた。
「A遅い!何してたの!今通しだから早く入って!」
すぐに私に気づいた部長が私の立ち位置を差しながら言う。
私のせいで練習が止まる。
「部長!」
私が勢いよく頭を下げると、周りがざわついた。
「私、甘えていました。皆さんが練習している間、教室で部活に行こうか悩んでいました」
「でもそれ、たった一時間でしょ?」
他の先輩が半笑いでフォローしてくれる。
甘えるな、私。
「それで?」
先輩を制して低い声で言う部長に、私は顔を上げて唇を噛み締める。
「私、部活をサボろうとしました。私が誰よりも練習しなきゃいけないのに、逃げようとしました。私のせいで、いつも練習を止めてすみません!私、これからは皆さんに追いつけるように沢山練習します!なので、それで、あの…走ってきます!」
「走るのはいいけど、準備運動ちゃんとしてから行きなね」
「…はっ、はい!」
それから、私は他の人たちの倍以上の練習をした。
遅れた分は、他の一年生がスマホで撮影してくれた動画を見ながら、夜遅くまで自主練習した。
そんなある日。
みんなが帰った後、いつも通り一人、練習しているときだった。
イチ・ニ。イチ・ニ。ここで回って────
「こら〜いつまでやってるんだ!鍵閉めるぞー!」
その声にびっくりして、私はバランスを崩し床に手をつく。
「わーごめんごめん。びっくりした?」
走って私のところに来て手を差し伸べてくれたのは、
「ぶ、部長…!?」
いつも結んでいる髪を下ろして、普段とは雰囲気の違う部長だった。
「すみません、ありがとうございます」
差し出された手を取って、立ち上がる。
「なにしてるの」
「あ、あのすみません!戸締りはちゃんとしますので」
「そんなことはいい。なにしてるのって聞いてるの」
静かな練習場には、スマホから動画の音楽が流れる。
部長が、腕を組んで私を見る。
「私は他の人より沢山練習しなくちゃいけなくて、でも他の人たちは絶対に私の数歩先にいて。追いつかないと、迷惑ばかりかけてしまう」
ジャージのズボンを握る手に、力が入る。
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あまね(プロフ) - 3年ぶりも大好きです (2月18日 3時) (レス) @page42 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
hwanieee - 私が好きな自信満々ででもまだ完璧じゃなくて繊細な五色くんがいて感動しました! (2月12日 10時) (レス) id: 307954f471 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 待ってなんでこの神作に早く出会わなかったの?私バカなの?((((喧しいわ (2021年8月14日 20時) (レス) id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
和敬 - 出会って1年と経ちますが、今でもこの小説だけは何十と読み直してる位 大好きです。甘酸っぱくて、だけどちょっと、もどかしさもあって 。本当に素敵な作品をありがとうございました! (2020年11月9日 0時) (レス) id: a0a88ff10f (このIDを非表示/違反報告)
てつこ - 最高の夢をありがとうございます (2020年1月28日 1時) (レス) id: d5585a65a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年8月25日 22時