ヘタレ ページ6
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「私、このまま部活続けてていいのかな」
ぽつり、口からこぼれた言葉。
ハッとして五色くんを見ると、頭にはてなマークが浮かんでいる。
「ご、ごめん。なんでもな、」
「お前、意外とヘタレなんだな」
「…え?」
五色くんの思ってもみなかった言葉に、今度は逆に私の頭にはてなマークが浮かぶ。
「一般入試で入ってきたから、すごいやつなんだと思ってたけど。ほら、ここって県内じゃ難関校だから」
まぁ俺は勉強からっきしだけど。と付け足す。
「それは買い被りすぎ。私なんて、そんなすごい人じゃない」
机の中のユニフォームに触れる。
「前から思ってたけど、その‘私なんか’っての、口癖?」
「え…?」
気にしたことなかった。
「自分に自信持った方がいい」
思えば、よく使う言葉だ。
「ははっ、私、五色くんの言う通りヘタレなのかも」
ヘタレ。
弱った物、臆病な様子や情けない性格をした人物を指す。
本当に私のことだ。
笑っちゃうくらい、その言葉がよく合う。
「みんなそれぞれ目標を持って部活に参加してるのに、私だけが中途半端な気持ちで参加してて。それが失礼だって、言い訳に使って今もこうやって練習から逃げて、」
俯いていた顔を上げると、五色くんが真っ直ぐ私を見ていた。
「私、急になに語ってんだろう!ごめん、今の忘れて!」
わーわー何言ってるんだろう私。
五色くんすごく困ってる。
顔、熱い。
「それを人に言えることが、十分すごいことだと思うけど」
さらっと。
当たり前の顔して言ってしまう五色くんのその言葉に、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
「ま、俺からしたら全然ヘタレだけどなー!なんたって、俺はエースになる男だからな!」
腕を組んで堂々と言い切る五色くんに、目頭が熱くなる。
彼には絶対的な自信がある。
私には、ない。
でも、なんだろう。
わだかまりがスーッと消えていくような、そんな感覚。
靄が一気に晴れていくような。
「じゃ、俺練習戻るから」
そう言ってバタバタと教室を出て行く五色くんを呼び止める。
「あの!ありがとう!」
「俺何もしてねーけど!早く部活行けよ!」
そう言ってニカッと笑った五色くんは、颯爽と教室を出て行った。
私は机の中に押し込んだユニフォームを、顔に強く押し当てた。
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あまね(プロフ) - 3年ぶりも大好きです (2月18日 3時) (レス) @page42 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
hwanieee - 私が好きな自信満々ででもまだ完璧じゃなくて繊細な五色くんがいて感動しました! (2月12日 10時) (レス) id: 307954f471 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 待ってなんでこの神作に早く出会わなかったの?私バカなの?((((喧しいわ (2021年8月14日 20時) (レス) id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
和敬 - 出会って1年と経ちますが、今でもこの小説だけは何十と読み直してる位 大好きです。甘酸っぱくて、だけどちょっと、もどかしさもあって 。本当に素敵な作品をありがとうございました! (2020年11月9日 0時) (レス) id: a0a88ff10f (このIDを非表示/違反報告)
てつこ - 最高の夢をありがとうございます (2020年1月28日 1時) (レス) id: d5585a65a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年8月25日 22時