逃げ ページ5
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…部活、行きたくないな。
走りたくない。ランニングが終わるころに行こうかな。
理由は、先生に呼び出しされたとかでいいかな。
外から運動部の掛け声が聞こえる。
みんな、頑張ってるのに。私だけ。
うちの部が特別厳しいわけじゃない、多分普通。
目標が高ければ高いだけ、練習はハードになる。
もっと厳しい部活なんて山ほどある。
全国区のバレー部なんて、もっと厳しいはずだ。
私が、自分に甘いだけ。
まだ入部して一か月ちょっと。
練習についていけなくて挫けている自分が情けないと思うのに、必死で逃げ道を探している。
誰もいない放課後の教室。
私は机に置いたチアのユニフォームを眺めていた。
紫を基調として青と白が入ったユニフォーム。
これを受け取った時は、嬉しくて、あの時見た憧れのユニフォームだって一人で歓喜して、頑張るぞって意気込んでいたのに。
壁掛け時計の時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえる。
うるさい。
自分の鼓動すらも、うるさいと感じる。
部で一番を後れを取って、私がミスするたびに練習が止まり、みんなに迷惑かけているのに。
分かっているのに、何で私はこんなにも、自分に甘いんだろうか。
気づいたらユニフォームを右手で固く、固く握っていてしわが寄っていた。
紫が、泣いてる。
泣きたいのは、私の方だ。
「も、やだ」
掠れた私の声が窓から吹く風に乗って消えていく。
受験で自分に厳しくなれたのは、白鳥沢でチアになるっていう明確な目標があったから。
じゃあ、今は…?
チアになって、私は何をする…?
ただ、応援したいだけ…?
なにも、ない。
「あれ、なにしてんの」
その声にハッと顔を上げると、五色くんが教室にいた。
慌ててユニフォームを机の中に隠す。
入ってきたの、気づかなかった…。
「チア部、外走ってたけど」
「あー、うん」
言葉を濁す。
五色くんは私の隣の自分の席に来て、「サポーター忘れて」なんて独り言を言いながら机にかかっていた袋を手に取った。
「部活、行かないのか?」
袋の中身を確認しながら、五色くんが言う。
「チア部って、大会あるんだよな?」
「うん」
きっと、競技チアのこと。
先輩たちは、その大会に向けて頑張ってる。他の一年生も一緒。
私だけが、別の方向を見ている。
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あまね(プロフ) - 3年ぶりも大好きです (2月18日 3時) (レス) @page42 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
hwanieee - 私が好きな自信満々ででもまだ完璧じゃなくて繊細な五色くんがいて感動しました! (2月12日 10時) (レス) id: 307954f471 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 待ってなんでこの神作に早く出会わなかったの?私バカなの?((((喧しいわ (2021年8月14日 20時) (レス) id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
和敬 - 出会って1年と経ちますが、今でもこの小説だけは何十と読み直してる位 大好きです。甘酸っぱくて、だけどちょっと、もどかしさもあって 。本当に素敵な作品をありがとうございました! (2020年11月9日 0時) (レス) id: a0a88ff10f (このIDを非表示/違反報告)
てつこ - 最高の夢をありがとうございます (2020年1月28日 1時) (レス) id: d5585a65a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年8月25日 22時