前髪 ページ27
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それから私は練習の後、五色くんのいる体育館に寄ることが増えていった。
たまに声を掛けずにドアから覗いていると、通りかかった明るめの茶髪の二年生の先輩に不審そうに見られたりもした。
時折顔を出す天童さんには、からかわれることが多くなっていった。
そんなある日の帰り道。
私は夜道を五色くんと並んで歩いていた。
事は、自主練習を終えた後の天童さんの一言だった。
『工、たまには送ってあげれば〜?いつも片付けまで付き合ってもらってるんだし。それに暗い夜道は女の子一人じゃ危ないでしょ〜。それに、愛想つかされちゃう、ヨ?』
最後の一言の意味は分からなかったけど、なんとなくムキになって歩き出した五色くんと並んで歩いた。
こんな機会はあまりないわけだし、私は彼の好意に甘えることにした。
「車道側歩くなよ。暗いんだし」
隣を歩く五色くんが私のカバンを引いて、立ち位置を入れ替えた。
「ありがとう」
隣を歩くのは、なんだか不思議な感じ。
「五色くんはさ」
石を蹴ると、コーンと前へ飛んだ。
「なんで、前髪ぱっつんなの?」
「え?…あ、そういえばこの前俺のことおかっぱって言ったな」
五色くんの不機嫌そうな視線を頭上に感じながら、私は前を見て「わはは」って笑った。
彼が言っているのは、あまり思い出したくないけど、ひと悶着あった日のことだ。
「言われてみれば、なんでだろ。ずっとこの髪型だったから、落ち着く…のかな」
私は五色くんの一歩前に出て踵を返して彼を見上げる。
「じゃあ、さ」
互いに立ち止まる。
「お揃いだ!」
私は昨日眉あたりで真っ直ぐ切り揃えた自分の前髪を指さして笑う。
ケタケタ笑う私に、五色くんが下唇をグッと上に持ち上げた。
「おっ、お揃いだろうがなんだろうが、俺は勝つんだ!」
噛み合わない返答に、私は思わず吹き出してしまう。
「わ、笑うな!」
月に照らされた彼の顔が、少しだけ赤らんで見えたのは気のせいだろうか。
「置いてくぞ」
そう言って横切った五色くんは、もう数歩前。
ちょっぴり嬉しくなりながら、私は彼の横に並ぶ。
「歩くの早いよ」
距離が近づいている気がして。彼を知るにつれて、もっともっと応援して支えたいと思う気持ちが強くなっていく。
そんな、ぎこちないような、ふわふわ浮かんでいるような私たちを知っているのは、夜空に浮かぶ月だけ。
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あまね(プロフ) - 3年ぶりも大好きです (2月18日 3時) (レス) @page42 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
hwanieee - 私が好きな自信満々ででもまだ完璧じゃなくて繊細な五色くんがいて感動しました! (2月12日 10時) (レス) id: 307954f471 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 待ってなんでこの神作に早く出会わなかったの?私バカなの?((((喧しいわ (2021年8月14日 20時) (レス) id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
和敬 - 出会って1年と経ちますが、今でもこの小説だけは何十と読み直してる位 大好きです。甘酸っぱくて、だけどちょっと、もどかしさもあって 。本当に素敵な作品をありがとうございました! (2020年11月9日 0時) (レス) id: a0a88ff10f (このIDを非表示/違反報告)
てつこ - 最高の夢をありがとうございます (2020年1月28日 1時) (レス) id: d5585a65a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年8月25日 22時