. ページ14
.
「俺のせいで、彼女を苦しめてた」
あまりに静かで弱い彼の声は
冷たい冬空に消えた
光を宿していない虚ろな彼の目に
この時初めて気が付いた。
彼のことは親友として、よく知っている
けれど、知っていても、
彼を救うことはできなかった
「俺が…あいつの手を取らんかったから」
あの日、涙を浮かべて懇願した彼女が
心の底から望んでいたのは
たった１人の、愛する人の幸せ。だった。
けれど、今、目の前で涙を浮かべて
すべてを後悔している彼が心の底から望んでいるのも
たった１人の、愛する人の幸せ、だ
「なんで…なんで俺は…」
多くを語らない奴だ
けれど、とても分かりやすくて嘘がつけない奴
だから、彼が抱え込んで苦しくなるようなら
自分も一緒にその負担を背負おうと思っている
けれど、
「ほんまは…ほんまは気付いててん」
涙を浮かべることすらできていない
目の前の彼に、
差し伸べる手なんて、どこにもなかった。
「ほんまは気付いてたのに…」
すべてを知っている俺に
できたことは、たくさんあったはずなのに。
彼女の幸せを叶える、
それが幼なじみとして、
彼に幸せになってもらう、
それが親友として、
どちらも幸せにすることは、
俺にしかできないはずだったのに
「こんなん…愛されんくて当然や…」
彼の口からこぼれ落ちるように漏れた静かな言葉は、
確かな形を残したまま、空に消えた
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 31人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鵲 | 作成日時：2019年12月4日 11時
