闇オークション職員の憂鬱

■　記録21 ページ24

「風魔法は、一見地味にも見えるけど、そんなことは無いんだ。なんせ僕の魔法だからね」

足が、止まる。

それを確認した風魔法は、ワタシを拘束することもなく喋り出した。先程までの高揚感は最初からなかったのかもしれない。


「今みたいな追い風とかね。流石に限度もあるし、魔力量にも比例するけど、前みたいな小さい竜巻を作るのだって造作もない」

ニュアンスでしか聞き取れない。誓って聞き流していたのではない。息も切れていて呼吸が苦しいはずなのに気にならなかった。

「殺傷だって簡単だ。生き物は脆いんだよ。……まぁ簡単に言うと、僕の魔法は周囲に風を発生させ、それを操るんだ。詠唱も、一部の協力なやつを除けば必要ない。風魔法の類ではかなり強いやつだよ、これ」

手が湿っていることに気付いた。

今すぐ逃げ出したいのは、ここに居たくないからじゃなくて、きっと、恐怖から。足が動かないのは、疲労からじゃなくて、きっと、怖いから。息が上手く吸えないのは、沢山走ったからじゃなくて、きっと。

「その風は、必ず僕に付きまとっていなきゃいけないわけじゃない。風を従える僕っていうのも絵になるけどね。……一定距離なら少し離れたところまで飛ばせるんだよ。どういうことか、分かる？」

きっと。

「人がいるところまで飛ばして、風の波長を操れば、合図だって出せる」




「……あんだよアルマ。俺を呼び出すなんて久しぶりじゃねェか」

背後から、声。


「あれぇ、そうだっけ？ まぁ、僕に呼ばれるなんて光栄だよねぇ」
「…おう。で？ なんでエルフが脱走してるんだ？」

さっき、ご飯をくれた人の声だ。


「それは知らないけど。…ね、サエウム。もう周り真っ暗でしょ？」
「知ってらァ、さっき夜の飯配りに行ったからな。……俺はお前にやれって言われたって言うぜ」

こんな雰囲気だったっけ、この人。


「じゃあ僕は止めたけど止められなかったって言おう」
「お前がやれって言ったんだからな？ …久しぶりなんで、加減は覚えてねぇぜ」

「いいよ、僕も久しぶりだ」

＿＿サエウムの曲がったところを見れるのは。





刹那。

音。遅れて、衝撃。

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