逃げただけでした。#1

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『ダメじゃん、』



視界が滲みそうになって、目頭を慌てて押さえる。





私、昨日からずっと泣いてばっかじゃないか。
いい加減吹っ切れなきゃ、とそう自分に言い聞かせる。

ふーっと一回深呼吸をして、少しだけ気持ちを落ち着かせる。

もうすぐ家に着くからそれまで我慢、我慢。と繰り返して、早歩きで自分のマンションを目指した。





そしてマンションの目の前の..............エントランスの、数メートル前まで来た時。入り口近くに人影が見えた。





とは言っても、人がいるなーくらいで特に気にせずに、そのまま通り過ぎる予定だった。

外は暗くて、下を向いてスマホを弄ってるみたいだったから、顔とかもよく見えなかったし。





でも、なんでだろう。

どこか、背格好や雰囲気とかが彼に...........葛葉に似てるな、なんて感じてしまった。
まあでもそんな筈でしょ、とすぐに頭から掻き消す。








マンション前の階段を1段、2段と上がる。
最後の3段目の階段を上れば、少し下を向いていた視線が自然に上がって。



そのまま導かれるみたいに目線の先は、入り口付近に立っているその人に向けられた。そして。

ふと顔を上げてこちらに目を移したその人と、ばちっと視線がぶつかる。








『＿＿＿＿＿＿え、』








その瞬間が、まるでスローモーションのように見えた。





なんで、此処にいるの。
頭に浮かんだのは、その言葉ぐらいだった。



でもそれを口には出せずに、
ただただ目の前に、視界に映る彼を見つめた。

目が合ったまま体が硬直したみたいに、その場から動けない。






『＿＿＿＿＿どう、したの』




ねえ、なんでここにいるの、葛葉。

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