狼 青 年 〜フードの奥の素顔〜

＊ ページ32

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俺がいつもみたいに、押し入れにこもっていたとき。


母さんが、泣きながら家に帰ってきた。




朝の時間。確か、6時半頃。

いつもより早く帰ってきた母さんが眠るのを、押し入れの中で待つ。

遅刻しちゃうな、くらいしか考えなくて。
なんで泣いてるのかなんて、気にしなかった。




でも。







『ほらっ、早く歩けよっ！！』

『まっ……わかった、わかったからっ……きゃ…っ、ぅ”…』




…………父だ。


父が母親に暴力をふるってるんだ。





ビクッと揺れた体が、押し入れのドアにかたっと当たる。

それだけで、背筋が凍るような感覚がした。
幸い……俺に矛先が向くことは、なかったけど。





『金』

『っ、今月、はっ………これしか…っ、でも次はっ、次はもっと……！』









『……………あ”？』









………まずい。









父の声音が変わり……母の、さっきよりも大きな悲鳴が響き。

大きな音と、何かが倒れる音が押し入れの中まで聞こえてきて。





『いやだっ……ごめんなさ……っ、お願い、遙一さっ……！』

『っせぇな！！！…お前この前も同じこと言ってたよな！あ”ぁ！？！？』

『っ、離して…っ！！痛いっ！！ぐっ………』









……怖い。


怖い、怖い怖い……！！





震える手。

物音と、母の声が聞こえる度に、ビクッと大袈裟に跳ねる体。




『っ、ひ…！』



いつもと違う、尋常じゃない父の怒りに俺まで体が固まって、小さく声が漏れた。





『っおい！！てめぇっ……！！！』

『ひゃっ……っ、やだ！！！やだやだっ……誰かっ……！！おねがっ………』





…………ザクっという、普段なら聞こえるはずのない音。





『あ”っ……ぅ、あ……っ……はっ…』







急に覇気が無くなった、母親の声。







ドサッと、何かが床に落ちるような衝撃音。








見えてはないけど、わかった。



…………母さんは、殺された。








『チッ……………おい、涼介！！いんのか！？あ”！？』









…………殺される。



見つかったら、確実に……！！




途端に呼ばれた声と、その恐怖に。

押し入れの中で口を押え、息遣いも聞こえぬよう、体を縮こませた。









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………物音を聞き付けた近隣の人が、通報したらしい。



父は、逮捕され。


母の遺体のそばで、血の海の中呆然と立っていた俺も、保護された。






…………そうして、今住んでる施設に入り。

2回目の地獄が始まったわけだ。

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