第二章:彼女の正体 ページ5
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何とか山を越えた少女。あれから3日経っていた。
教員は生徒の目に触れさせないよう医務室の横部屋に近づかせないよう呼びかけた。
好奇心で来る子もいたが横部屋は医務室を通らなければ入れないようになっていた。
上級生ともなれば天井裏から覗きに来る子もいたが、それは先生方の罠により来る子も減った。減ったというだけで来る子はいる。
今は昼餉を食べ終わった半助が見ている。新野は薬草取りに出かけている。
半助は少女を横目に見ながら来週分に扱う授業案を見直していた。
「………_…」
「ん?」
明らかに自分の声ではない声がした。半助は少女を見ると目が微かに開いていた。
「…こ、こは…」
「気がつきましたか?」
ゆっくりと少女は声がした方向に目を向ける。ほっとした顔の端正な顔立ちが視界に広がっていた。
「貴女は学園の門前で血だらけで倒れていたんですよ」
「…助けて、頂いたんです、ね…」
「まぁ、死にそうになっている人を見捨てるほど非道ではありませんから」
「ふふ、死にそうに…ですか…」
「…もしや怪我の原因をご存知ないですか?」
目が覚めて間もないというのに質問が止まらない半助に少女は内心ほくそ笑む。分かっているとも。自分がいかにしてこの世界にきたのか。怪我の原因は以前の世界に受けた傷だ。ただ説明しようにもこの世界の事を知らない、下手に喋らないほうがいいだろう。
「残念ながら、覚えておりません……あの、」
「はい?」
「私の、名はAAと、申します」
「え?あ、私は土井半助です」
「土井さん、はい、覚えました」
本当にありがとうございました。再度、お礼を言うとまた目を閉じた。半助は慌てて脈を測る。正常に動いていた。喋り疲れて眠ったのだろう。
半助は戻って来た新野に目が覚めた事を話し終えた後、学園長のもとに名前と怪我を負う前を覚えてなかった事を教えた。
心の中で彼女は天女ではないんじゃと思いながら。
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作者名:夢月 | 作成日時:2020年7月23日 15時