タルト・タタン ページ31
秋雨が去り、Aにもいつもの日常が戻ってきた。今日は休日。Aはストラスブールから持ち帰ったかつての母親の形見である真っ白なエプロンをつけて寮に備え付けられたキッチンに立っていた。
「よし、やりますわよ！」
「……なにを？」
嬉々として図書館に出かけているエーミールは不在。Aと休日を過ごすのは決まってゾムであった。Aが今まで厨房に入ってるところなんて見たこともない。ゾムは嫌な汗が流れるのを無視して彼女を見守ることとした。
「材料は…これですわね。レシピも準備しましたし…ん…適量？適量ってどれぐらいですの…？」
ゾムの心配を余所に彼女は意外にもテキパキと何かを作っていた。小麦を練り、バターを混ぜた生地を氷で冷やしその間にリンゴや砂糖を温めていたフライパンに入れていく。
「…パイ？」
なんとなくその正体がわかったゾムがAへ尋ねると彼女はこくりと頷いた。
「えぇ、タルト・タタンですわ！ お父様もわたくしもこのお菓子が一番好きですの。明日はハロウィンでしょう？皆様に配ろうと思いまして」
ニコニコと彼女は機嫌よさそうにブルーサファイアを細める。厨房からいい匂いが香りゾムもいつの間にか腹の虫を鳴かせてしまうぐらいには心配をどこへやらやっていた。
時間にして40分後ぐらいだろうか…チーン、とオーブンがタルトの焼き上がりを知らせる。焼き上がったそれを見てAもゾムも微妙な顔をした。
「……見栄えが悪いですわね…」
「…毒でも入ってそうやな…」
Aはきっちりと与えられた仕事をこなす。勉強もそうだったように。しかし生まれ持った器用さは誤魔化しきれなかった。焼きすぎたからか少し焦げてしまい、大小様々な形の林檎はまるで毒が待ちじっているかのように凹凸を作ってしまっている。
匂いは食べ物のそれだがこの見た目を見てしまうとどうも食欲はそそらなかった。
項垂れるAを見てゾムが「もう一回チャレンジするか…？」と問いかける。
「……材料がないのです」
なるほど、とゾムは顎に手をやる。全員に一ピース与えようと思っても量はかなり必要だ。現にAの手で作られたタルトは三ホールほどあった。これをそのまま捨てることをゾムは許せないし、彼女の決断は正しいだろう。
「なぁ、A様。これ食ってええか？」
「元よりこのワンホールはわたくしとゾム、エーミールで食べる予定でしたわ」
どうぞ、とAがフォークを渡した。
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夏目宮(プロフ) - 失礼します。ストラスブールのことなのですが、皇室があるのなら王国ではなく「皇国」ではないでしょうか？ (2022年3月28日 19時) (
レス) @page13 id: c1f3a10c7f (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 森安里さん» コメントありがとうございます…！二度目の人生で見えてくる視野も広がり彼女自身が成長するところを実感していただき嬉しいです。素敵なコメント並びに応援のお言葉をありがとうございました…！のんびり更新ではありますが今後ともよろしくお願いします！ (2020年12月8日 16時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
森安里(プロフ) - 王女様のどんどん成長していく姿に目が離せません。恋愛や友情が詰まった素敵な作品だと思います。これからも頑張ってください。応援しています! (2020年12月5日 13時) (レス) id: 0d0cef0762 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - がいこうかんさん» 外交官さん…！コメントありがとうございます！文章が美しいなんて最高の褒め言葉をありがとうございます！ゆっくり更新ではありますが今後ともお付き合いしていただければ幸いです！本当にありがとうございました…！ (2020年11月20日 22時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ゼアさん» コメントありがとうございます…！面白いというその一言でやる気が出ます！割と長いお話を一気に読んでくださりありがとうございました…！今後とも完結までよろしくお願いします…！ (2020年11月20日 22時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
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