ムーンストーン伝承譚 ページ29
エーミールの肩は相変わらず雨に濡れていた。
「覚えていますか？ 私とA様が初めて会った時のことを」
王族としてたくさんの従者やたくさんの親族、そして他国の貴族と交流を持つAが覚えている出会いなどインパクトがない限りあまり覚えていない。しかし、Aは処刑される前夜に彼が話してくれた時のことを思い出した。あの時の彼もまたAへ同じような言葉をかけたのだ。
「…確か」
「…覚えていらっしゃらなくて結構ですよ。私と初めて会った時、あなたは、
すごく綺麗な瞳ね。まるでムーンストーンみたいだわと、そう仰ったのです。」
ムーンストーン、とAが繰り返す。目の前の彼を見て我ながらいいことを言うではないかと満足げに微笑んだ。
「ムーンストーンとは、月の石。月には魔力があると言われております。そのためムーンストーンもまた人々の間では心願成就の石として崇められておりました。……私は驚きました。この世界に私のこの瞳を褒めて、そして私の瞳をムーンストーンだと形容する方がいることに」
「エーミールの瞳は美しいわ。例え人々があなたを気味悪がったってわたくしは意見を変えませんことよ」
「はは…嬉しいものですね。」
エーミールが眉毛を下げて笑う。
「A様。私の家系にはストラスブール王国の昔話とよく似た伝承があります。」
「天からやってきたムーンストーンの持ち主が主役となった話です。…お聞きになられますか？」
ここまできたらAは頷く他ない。しっかりと彼の瞳を見ると、エーミールもまた瞳を合わせて、静かに話始める。
「天からやってきた彼女は、人から化け物だと煙たがられていたんです。でも…その中でもとある兄弟は違いました。彼女の手を取り、そしてブルーサファイアを持つ男が自分の瞳のことを美しいムーンストーンだ、と褒めてくれたのです。その瞬間、彼女は彼に恋をしました。美しかったその外見はより美しいものとなり、たくさんの男たちを虜にさせました。それでも彼女の想いは変わりませんでした。自分を初めて、認めてくれた彼のことを忘れることが出来るわけがなかったんです。
そして、この後はお話の通りです。身を引いた弟の代わりに兄が彼女の夫となりますが真実の愛の前には彼は敵いませんでした。
そして、彼女は後世に残したものがあります。」
エーミールはちらりとAを見るとそっと彼女が濡れるように傘を傾けた。
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夏目宮(プロフ) - 失礼します。ストラスブールのことなのですが、皇室があるのなら王国ではなく「皇国」ではないでしょうか？ (2022年3月28日 19時) (
レス) @page13 id: c1f3a10c7f (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 森安里さん» コメントありがとうございます…！二度目の人生で見えてくる視野も広がり彼女自身が成長するところを実感していただき嬉しいです。素敵なコメント並びに応援のお言葉をありがとうございました…！のんびり更新ではありますが今後ともよろしくお願いします！ (2020年12月8日 16時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
森安里(プロフ) - 王女様のどんどん成長していく姿に目が離せません。恋愛や友情が詰まった素敵な作品だと思います。これからも頑張ってください。応援しています! (2020年12月5日 13時) (レス) id: 0d0cef0762 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - がいこうかんさん» 外交官さん…！コメントありがとうございます！文章が美しいなんて最高の褒め言葉をありがとうございます！ゆっくり更新ではありますが今後ともお付き合いしていただければ幸いです！本当にありがとうございました…！ (2020年11月20日 22時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ゼアさん» コメントありがとうございます…！面白いというその一言でやる気が出ます！割と長いお話を一気に読んでくださりありがとうございました…！今後とも完結までよろしくお願いします…！ (2020年11月20日 22時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
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