雨はやまない ページ27
「A、帰ってきたんだ」
昼休み。クラスの違うひとらんがわざわざAの教室まで迎えに来た。久しぶりに見たオニキスは相変わらず落ち着いていて、Aは嬉しくなり立ち上がる。
「挨拶が遅くなってごめんなさい。ただいま戻りましたわ」
「ううん、いいんだ。君が無事でいてくれたことが何よりも嬉しいんだから」
微笑むオニキスにAもまた笑顔を返す。しかし会話は続かない。あまり空気を読むことがしないAにも、ひとらんが何かを自分に伝えようとしていることが手にとるようにわかったからだ。場所でも変えようと言ったひとらんはAに手を差し出して歩き出す。彼が連れて来たのは二人が初めて出会った花壇の見える廊下だ。外は雨が降り続いているためにそこに行くのは叶わなかったのだろう。
「ひとらん様…？」
「Aに聞きたいことがあったんだ」
背筋の伸びた彼は顔だけをこちらに向ける。
「俺と君の関係は、あの日から縮んでいない？」
「…あの日って、」
「歓迎パーティーの日にパートナーになってくれただろ」
迷うように視線を流して彼は振り続ける雨を見上げる。
「わたくしの唯一のパートナーになったのに不服なようですわね」
「不服とかじゃないよ」
「でもその物言いですとそう聞こえますわ」
「…気を悪くさせたなら謝るよ。君の周りの人たちを見ていると自信がなくなってね」
「自信が…？」
目を合わせないまま彼は口元を少しだけ緩める。
「君はどんどん前に進んで、たくさんの人を巻き込んで遠いところに行ってしまうから。俺だけがあの日に取り残されているような、そんな錯覚に陥ってしまうんだ。」
Aが初めてみる彼の弱い部分に、どう返すべきか迷ってしまう。いつも優しく一歩前から振り向いて手を差し伸べてくるのが彼のイメージだったから、まさか自分の後ろで取り残されていると感じているなんて思わなかったのだ。
「………なーんてね。」
くるりと踵を返して彼は進む。
振り返った顔はどこか晴々としていた。
「ねぇ、A。」
「…はい」
「雨、止まないね」
その言葉にAは顔を上げて空をみる。分厚い雲に覆われた空は一向に自分の瞳と同じ色を見せてはくれなかった。
「えぇ、そうですわね」
Aの返答を聞いたひとらんは機嫌の良さそうに微笑む。
「いつか俺の国に来てよ。いいもの見せてあげるから」
「…もちろんですわ！」
二人は微笑み合って手を繋ぐ。
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夏目宮(プロフ) - 失礼します。ストラスブールのことなのですが、皇室があるのなら王国ではなく「皇国」ではないでしょうか？ (2022年3月28日 19時) (
レス) @page13 id: c1f3a10c7f (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 森安里さん» コメントありがとうございます…！二度目の人生で見えてくる視野も広がり彼女自身が成長するところを実感していただき嬉しいです。素敵なコメント並びに応援のお言葉をありがとうございました…！のんびり更新ではありますが今後ともよろしくお願いします！ (2020年12月8日 16時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
森安里(プロフ) - 王女様のどんどん成長していく姿に目が離せません。恋愛や友情が詰まった素敵な作品だと思います。これからも頑張ってください。応援しています! (2020年12月5日 13時) (レス) id: 0d0cef0762 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - がいこうかんさん» 外交官さん…！コメントありがとうございます！文章が美しいなんて最高の褒め言葉をありがとうございます！ゆっくり更新ではありますが今後ともお付き合いしていただければ幸いです！本当にありがとうございました…！ (2020年11月20日 22時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ゼアさん» コメントありがとうございます…！面白いというその一言でやる気が出ます！割と長いお話を一気に読んでくださりありがとうございました…！今後とも完結までよろしくお願いします…！ (2020年11月20日 22時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
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