Après la pluie, le beau temps ページ45
ひとらんが目を覚ますと頭の下に何やら柔らかいものがあった。それを確かめようと動く前に額にそっと温かい何かが置かれる。
「まだ寝てなさい。私の膝を借りるなんてとっても光栄なんだからね」
その声を聞き、自分がどうして倒れていたのかを察した。すかさず頭をあげようとするが血の流しすぎによる貧血のせいでうまく体を起こすことが出来ない。
ひとらんの視界には、Aと夜空。彼女はひとらんの頭を撫でたまま火を囲んでいた。
「もう、大丈夫だから」
風に靡いて揺れる髪の毛を見ていると妙な気になってしまって、ひとらんは体に鞭を打って今度こそ起き上がった。
ぐらりと揺れたところAが支える。
彼女に支えられたままやっと体勢が整い、二人して寄り添ったまま火を囲む。
先に口を開いたのはAであった。
「わたしね、」
彼女の言葉にひとらんは黙ったまま耳を傾ける。
「わたし、本当は王位継承なんてどうでもいいの」
なんとなく彼女と過ごした時間の中でひとらんはその気持ちを汲み取っていた。
「王位継承第四位の私はどうせ魏国の王にはなれない。だからと言って私は姫なのは変わりない。……王位継承第二位のお兄様は私を使って大国の力を得ようとしているの」
「…じゃあさっきの刺客は」
「えぇ。きっと、お兄様の仕業だわ。私を女として他国の王に嫁がせるつもりよ。そうすれば同盟を結ぶことなんて簡単だもの」
天真爛漫な我儘娘と思っていたが彼女は彼女なりに狭い王宮で戦い続けていたのだろう。ひとらんの腰を支える彼女の手が、途端に愛おしくなってしまってひとらんは一気に冷えた水を飲む。
「ねえ、ひとらんらん。」
初めて彼女の口から紡がれた自分の名前。
「わたしと一緒に、逃げてくれないかな」
彼女の顔に浮かぶのは、言葉とは正反対の諦めと憂いだった。
ひとらんらんの体は動かない。体の末端から痺れが回って、抵抗も出来ずにバタンと地面に倒れてしまう。
「
痺れる体でも頭は回る。しかし彼女の用意した水に薬が入っていたことに気づくのは遅すぎた。
そして彼女の歌う意味がようやくわかって、「…A…!」と掠れた声で呟く。それを最後に彼の意識は今度こそ途切れたのだった。
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鳩山(プロフ) - 114514さん» コメントありがとうございます…!(そっとハンカチを差し出す)難民さんに刺さるお話があれば幸いです! (2020年7月3日 19時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
114514 - ぐはっ(吐血) (2020年7月1日 21時) (レス) id: 3a17ec7a5b (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 琥珀さん» 琥珀さんコメントありがとうございます…!難民として完結できたことを誇りに思います!今後とも活動は続けていきますのでよろしくお願い致します…! (2020年4月7日 17時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
琥珀(プロフ) - htrnさんの素敵なお話ありがとうございました……! (2020年4月7日 7時) (レス) id: 742aa07519 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 外ピさん» コメントありがとうございます!htrnは私の最推しでして、自給自足のためにこの作品を作りました。その言葉に私は咽び泣くほど嬉しいです…!ありがとうございました!もう終わりに近づいてはおりますが、今後ともよろしくお願いします! (2020年3月29日 21時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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