「心臓に耳を当てて」 ページ37
ひとらんが刀を掲げて、思いっきり彼女に向かって振るった。彼女と過ごした日々が、ほんの少しだけ彼の速度を落とした。
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冷たい金属の感触が彼女の首筋に触れると、すぐに耳障りな音が響いた。Aは最期まで彼の姿をこの目に焼き付けていようとしていたが、瞬間的に目を瞑ってしまっていたらしい。ゆっくりと目を開けると、切られた髪が舞い落ちる処だった。
「優しい軍人さん、何で泣いてるの？」
彼女は最期の一瞬まで笑っているのに対し、その命を刈り取ろうとする男は目から溢れんばかりに涙を溜めていた。
「……魔女はこれでいなくなった」
ひとらんは地に落ちた彼女の髪の毛の束を拾い上げる。
「最後まで、君は本当に優しいね」
魔女のことを恨んで、妬んで。
だけども心優しい魔女に触れたひとらんは自分の手で殺すことなんてできなかった。だからと言って、彼女のために全てを捨てて共に生きていくことも出来なかった。
ひとらんの心情を読んだ彼女はそれでも温かく笑っている。それがまた、堪らなくて、ひとらんは涙が溢れてしまったのだ。
「じゃあ、最後に君に
魔女の少女はひとらんらんに近づくとその唇に甘い口づけを落とした。彼女はまるで甘い蜜を吸った花のようで、
「ありがとう。優しくて、臆病で、でも真っ直ぐな軍人さん」
互いにこれが別れの言葉であると分かっていた。ひとらんは掴んでいた彼女の髪をさらに力強く握りしめる。それに対してAは先ほどのキスを噛み締めるように唇をなぞった。
「…ありがとう。A。君がどんな存在であれ、俺は、」
ひとらんらんの言葉を遮るように彼女は笑う。
「さよなら。ひとらんらん」
優しい風が吹く。
優しい風の癖に、目を開けるのには難しくて、ひとらんらんは思わず目を閉じてしまう。次に目を開いたその時には彼女の姿はなかった。
彼女の居たはずの場所に落ちていたのは、ライラック。
─────春を告げる花、それだけであった。
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鳩山(プロフ) - 114514さん» コメントありがとうございます…！（そっとハンカチを差し出す）難民さんに刺さるお話があれば幸いです！ (2020年7月3日 19時) (
レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
114514 - ぐはっ（吐血） (2020年7月1日 21時) (レス) id: 3a17ec7a5b (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 琥珀さん» 琥珀さんコメントありがとうございます…！難民として完結できたことを誇りに思います！今後とも活動は続けていきますのでよろしくお願い致します…！ (2020年4月7日 17時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
琥珀(プロフ) - htrnさんの素敵なお話ありがとうございました……！ (2020年4月7日 7時) (レス) id: 742aa07519 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 外ピさん» コメントありがとうございます！htrnは私の最推しでして、自給自足のためにこの作品を作りました。その言葉に私は咽び泣くほど嬉しいです…！ありがとうございました！もう終わりに近づいてはおりますが、今後ともよろしくお願いします！ (2020年3月29日 21時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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